【中2国語】タオル《定期テスト対策》過去問演習

定期テスト過去問演習

勉強する前に、目標(過去問)から先に見ましょう。勉強の効率が上がります。

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教科書本文

太文字をクリックすると、過去に定期テストに出題された問題と、模範解答がポップアップで表示されます。

下線部が引かれる問題

タオル
重松 清

 午後になって少年の家を訪ねてきた客は、初めて見る顔だった。背広に黒いネクタイを締めているのは、朝から入れかわり立ちかわりやってくる他の客と同じだったが、家の外にいた親戚に挨拶する時の言葉づかいが違った。「このたびは、どうもご愁傷さまです。」――テレビでしか聞いたことのない東京の言葉だった。
 祭壇のすぐ前に座っていた父は、その人が来たのを知ると、玄関まで迎えに出た。
「よう来てくれました、ほんまに、お忙しいのに……。」
 父はうれしそうで、懐かしそうだった。久しぶりにお兄さんに会った弟のように、自分より少し年上の客を、まぶしそうに見つめていた。
「十二年ぶりになるのかな。」
「もう、そげんなりますか……。」
 父はそばにいた少年の肩を抱いて、「ほな、コレが生まれる前いうことですか。」と言った。
「息子さん?」
 父は少年の名前を客に告げ、小学五年生なんだとも伝えて、「ほれ、挨拶せんか。」と少年の背中を軽く押した。
 少年が細い声で「こんにちは。」と言うと、客は体をかがめ、少年と目の高さを合わせて、「お父さんによく似てるね。」と笑った。
 父はてれくさそうに「似とるんは勉強のできんところだけですわ。」と言って、客を座敷に招き入れた。
 少年も客の後ろについて座敷に入る。
 今朝からずっと――本当のことを言えば、二日前に祖父が亡くなってからずっと、家のどこにいればいいのかわからずにいた。
 二階の自分の部屋は、親戚の着替えのための部屋になった。一階の部屋のふすまはあらかたはずされ、玄関の引き戸もさっきはずされた。通りに面した窓は白と黒の幕で覆われ、幕の前には花環がたくさん並べられた。台所には町内会のおばさんたちが出たり入ったりして、母の姿を探すだけでも大変だった。
「邪魔になるけん、外で遊んどりんさい。」と母に言われ、家の前でサッカーボールを蹴っていたら、目を真っ赤に泣きはらした叔母に「こげな日にふらふら遊んどったらバチが当たるよ。」と叱られた。しかたなく家に入ってテレビをつけると別の叔母に「音を出したらいけんよ。」と言われ、マンガを読んでいたら漁協の組合長が「おじいちゃんのそばにおってあげんさい。」と酒に酔った声で言って、そのくせ祭壇の設けられた広間に行ってみると、大人たちが集まっていて、座る場所などどこにもなかった。
 おじいちゃんが死んだ。
 それは、わかる。
 ずっと一緒に暮らしていた祖父だ。かわいがってもらっていた。「中学生になったら、おじいちゃんの船で漁に連れていってやるけん。」と口癖のように言っていた祖父が、脳溢血で、お別れの言葉を交わす間もなく死んでしまった。
 おじいちゃんが死んだのは悲しいことだ。
 それも、わかる。
 悲しいときには、泣いてしまう。
 それだって、ちゃんとわかっている。
 なのに、涙が出てこない。悲しいかどうかもはっきりしない。自分の居場所を見つけられないと、ゆっくり悲しむこともできないのかもしれない。
 父に案内されて祭壇の前に座った客は、丁寧なしぐさで合掌と焼香をした。父以外の誰とも知り合いではないのか、広間にいる人たちは皆、けげんそうな顔で客の背中をちらちら見ていた。客のほうも、焼香を終えたあとは広間にいる理由をなくしてしまったように、どこか居心地悪そうだった。
 客は、今夜の泊まり先に、町内の民宿を予約していた。父は「ウチに泊まってもろうてもよかったのに。」と少し残念そうに言って、戸口の脇に立ったままだった少年を呼んだ。
「おじちゃんを『みちしお荘』まで案内しちゃってくれや。」
「……うん。」
「ほいで、どうせおまえはここにおっても邪魔になるだけじゃけえ、お通夜が始まるまでおじちゃんのお世話して、町の案内でもさせてもらえや。」
 母に続いて父にも「邪魔。」だと言われたのは悲しかったが、とりあえず道案内と客のお世話という仕事が与えられてほっとした。
 客が玄関で靴を履いている時、父は初めて「ほな、シライさん、またあとで。」と客を名前で呼んだ。客も「ハジメさんも、あまり無理して疲れを出さないようにしてください。」と応えた。ハジメというのが父の名前だ。漢字で「一」と書く。
「お待たせ。」
 シライさんは玄関の外で待っていた少年に声をかけ、大きなバッグを肩に提げて歩きだした。礼服姿にはあまり似合わない、リュックサックのようなバッグだった。
 少年の家から『みちしお荘』までは、海に沿った一本道だった。夕方のなぎの時間にさしかかって、風が止まり、よどんだ潮のにおいが濃くなっている。
「二人まとめて厄介払いされちゃったな。」
 シライさんはそう言って笑った。ヤッカイバライの意味はよくわからなかったが、なんとなくシライさんが「俺たちは同じだな。」と言ってるんじゃないかと感じて、それがちょっとうれしくて、少年は自分から話しかけてみることにした。
「お父ちゃんと知り合いですか?」
「ああ。お父さんとも、亡くなったおじいさんとも知り合いだったんだ。」
「漁に出てたんですか?」
「いや、そうじゃなくて……。」
 シライさんは歩きながらバッグの腹を軽くたたいた。「取材をしたんだ、おじいさんの。」――シライさんは旅行雑誌の記者で、十二年前に祖父をグラビアページで紹介したのだという。
「見たこと、あります、それ。」
「そうか。おじいさん、カッコよかっただろ。」
 少年は、こくん、とうなずいた。祖父を褒められてうれしかったのが半分、残り半分は、シライさんの話にうまくついていけたことで、うれしいというより、ほっとした。
 祖父は地元で一番の腕をもつ一本釣りの漁師だった。今の、この季節――春先にはタイを狙う。夜明け前に港を出て、まだ日の高いうちに一日の仕事は終わる。
その頃はまだ、お父さんは見習いみたいなもので、おじいさんの船に乗って、しょっちゅう叱られてたんだ。髪も今みたいな角刈りじゃなくて、リーゼントで……リーゼントって、わかるかな?」
 本当はよくわからない。わからなくてもいいや、と思った。自分が生まれる前の父の姿はアルバムの古い写真で何度か見たことはあっても、こんなふうに誰かから話を聞くのは初めてだった。
 シライさんは「あとで写真見せてやるよ。」と笑った。「たくさん持ってきてるんだ。」
 少年は少し足を速めた。お父さんの知らないところで、お父さんの昔の写真を見て、お父さんの昔の話を聞く――というのが、いい。買ってきたばかりのマンガを開くときのように、胸がどきどきして、わくわくする。
 『みちしお荘』は、船だまりのすぐ前にあった。古びた漁船が二十隻近く並んだ中に祖父の船もある。ひときわ古い。少年が中学校に上がったら船を新調しようかと話していて、それっきりになってしまった。
 シライさんは宿帳に名前を書いたあと、部屋には入らずに、一階の食堂に少年を誘った。
「ジュース飲むか?」
「……はい。」
「じゃあ、ジュースと、ビール。」
 注文を取った『みちしお荘』のおかみさんは、少年を見て「おじいちゃんも急なことじゃったなあ。」と寂しそうな顔になり、頭をなでてくれた。
 ビールとジュース、それに「サービスです。」とゆでたイカの小鉢がテーブルに並んだ。この地方でベイカと呼ぶ、春が旬の小さなイカだ。酢味噌で食べると、すっぱさの奥でじんわりと甘みがにじむ。
「人が亡くなったときには乾杯っていわないんだ。献杯っていうんだ。」
 ケンパイ。また知らない言葉が出てきた。ふだんなら、家に帰って母にきけば、すぐに漢字を教えてくれる。でも、今夜はたぶんそんなことを話しかける余裕はないだろう。
 ビールとジュースのコップを軽くぶつけてケンパイすると、シライさんはビールを一口飲んで、ふうう、と声に出して息をついた。
「写真、見せてやるよ。」
 床に置いたバッグのファスナーを開け、中からぶ厚く膨らんだ封筒を取り出した。
「これ、全部写真なんですか?」
「ああ。全部、おじいさんとお父さんの写真だよ。」
 ほら、これ、とシライさんは封筒から出した写真を何枚かまとめて少年に渡した。
 祖父と父がいた。船に乗っていた。二人とも今よりずっと若い。父はまだ二十歳そこそこで、祖父も還暦前だった。
 はげていない頃の写真を見せたらおじいちゃんは恥ずかしがるだろうか、とクスッと笑いかけて、ああそうか、と頬をすぼめた。もうおじいちゃんと話すことはできないんだな。おとといから何度も思ってきたことなのに、今初めて、それ悲しさと結びついた。
 漁をしている時の祖父の写真は、どれもタオルを頭に巻いていた。いつもだ。昔から変わらない。最後の漁に出たおとといもそうだった。出かける前に庭のほうに回る。漁の道具をしまった納屋の脇に、針金を渡した物干し台がある。昨日のうちに干しておいたタオルをそこから取って、キュッと頭に巻きつけて、「ほな行ってくるけん。」と港へ向かう。漁を終え、魚市場に魚をし、仲間と軽く一杯やってから家に帰ってくると、頭からはずしたタオルを水洗いして、物干し台の針金に掛ける。ずっとそうだった。毎日毎日、それを繰り返していた。
「ほら、この頃はまだお父さんの雰囲気、あんまり漁師らしくないだろ。」
「……はい。」
「漁師を継ぐのは嫌だ嫌だって、俺と酒を飲むと文句ばっかり言ってたんだ。」
「そうなんですか?」
「今は、生まれついての漁師です、って顔してるけどな。」
 シライさんはおかしそうに笑った
 グラビアの撮影の仕事は一週間ほどだったが、家に泊まり込んでの取材を続けたおかげで、祖父や父とすっかり仲よくなった。
「仲よくなったっていっても、俺は東京だから、年賀状のやり取りぐらいしかできなくて、おじいさんが生きてるうちにもう一度会って写真を撮りたかったんだけど……。でも、昨日ハジメさんから連絡もらってうれしかったし、けっこうスケジュールはキツかったんだけど、ボクに会えたから、やっぱり来てよかったなあ、って。」
 シライさんはバッグから別の封筒を取り出して、中に入っていたはがきを「特別に見せてやるよ。」と少年の前に置いた。
 年賀状だった。差出人は祖父。印刷された文面の横に、手書きの一文が添えられていた。
愚息もようやく一丁前になり、孫もこの四月で六年生です。三代で船に乗れたらうれしいことです。〉
 祖父の字だ。まちがいない、これはおじいちゃんの字だった。
「ボクは大きくなったら、何になりたいんだ?」
 てれくさかったが、正直に「Jリーガー。」と答えた。シライさんは「そうか、じゃあもっとたくさん食べて、もっと大きくならないとな。」と笑ってくれた。

 日が落ちてから、少年はシライさんと二人で家に戻った。
 シライさんはお通夜の焼香を終えると、広間で親戚や町の人たちと酒を飲み始めた。シライさんの持ってきた祖父や父の若い頃の写真は、みんなの思い出話のさかなになっているようだった。
 少年は、また居場所をなくしてしまい、外に出てそっとサッカーボールを蹴ったり、台所をのぞいたり、階段の踊り場に座ってマンガを読んだりして暇を潰した。『みちしお荘』にいた頃はあんなに仲よしだったシライさんが、家に着くとあっさりと大人の仲間に入ってしまったのが、ちょっとしかった。
 台所の前を通りかかった時、叔母さんたちの話し声が聞こえた。祖父のなきがらを清めている時の話だった。首筋のしわをタオルで拭いていたら、潮と、魚と、それからさびのにおいが立ち上ってきたのだという。「何十年も船に乗ってきたんじゃけん、体に染みついとるんじゃろうねえ。」と叔母さんが言うと、母が「お義父さんは風呂が嫌いじゃったけんねえ。」と返し、みんなで懐かしそうに笑っていた。
 おとといまではこの家にいた人のことを、もうみんなは思い出話にしてしゃべっている。
 急に寂しくなった。涙は出なくても、だんだん悲しくなってきた
 玄関からまた外に出て、庭のほうに回った。
 納屋の脇に、ほの白いものが見えた。
 祖父のタオルだった。
 手を伸ばしかけたが、触るのがなんとなく怖くて、中途半端な位置に手を持ち上げたまま、しばらくタオルを見つめた。
「おう、ここにおったんか。」
 背中に声をかけられ、振り向くと、父とシライさんがいた。
「おじいちゃんの写真、シライさんに見せてもろうとったら、おもしろかったんじゃ。おじいちゃんは漁に出るときはいつもタオルを巻いとったろう。じゃけん、家におる時の写真を見たら、おまえ、みいんなデコのところが白うなっとるんよ。そこだけ日に焼けとらんけん……。」
 父はかなり酔っているのか、ろれつのしい声で言って、体を揺すって笑った。
「ほいで、今もそうなんじゃろうか思うて棺桶をのぞいてみたら、やっぱりデコが白いんよ。じゃけん、のう、シライさん、じいさんをええ男にして冥土に送ってやらんといけんもんのう……。
 涙声になってきた父の言葉を引き取って、シライさんが「タオルを取りに来たんだ。」と言った。「やっぱり、タオルがないとおじいちゃんじゃないから。」
 父は涙ぐみながら 針金からタオルをはずし、少年に「せっかくじゃけん、おまえも頭に巻いてみいや。」と言った。
 シライさんも「そうだな、写真撮ってやるよ。」とカメラをかまえた。
 少年はタオルをねじって細くした――いつも祖父がそうしていたように。
 額にきつく巻き付けた。
 水道の水ですすぎきれなかった潮のにおいが鼻をくすぐった。おじいちゃんのにおいだ、と思った。
「おう、よう似合うとるど。」
 父は拍手をして、そのままうつむき、太い腕で目元をこすった。
 シライさんがカメラのフラッシュをたいた。まぶしさに目を細め、またたくと、熱いものまぶたからあふれ出た。かすかな潮のにおいは、そこにもあった。

著者:重松清
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8D%E6%9D%BE%E6%B8%85

下線部以外の問題

作者名を漢字で書きなさい。

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重松清しげまつ きよし

この作品の中で、「タオル」はどんな意味をもっていると思われるか。

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例 漁師だった祖父の人生を象徴するもの。

「タオル」を他の言葉で何と表現しているか。五字程度で書き抜きなさい。

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ほの白いもの

この作品の中で、「タオル」は少年にとってどのようなものか。

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例 祖父の人生そのもの。(タオルとそこにしみついた潮のにおいは、祖父の思い出と強く結びつくもの。)

「タオル」以外で少年に祖父を思い出させるものを、五字で抜き出しなさい。

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潮のにおい

少年にとって祖父の思い出と強く結びついているものは何ですか。文章中から二つ書き抜きなさい。

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タオル、潮のにおい

この物語で、シライさんはどのような人物として描かれているか。

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若いころの父の様子や、祖父の少年に対する思いを伝えるなど、少年と祖父や父とのかけ橋になっている。

「写真」と同じ成功の熟語として最も適切なものを、次から選び、記号で答えなさい。

あ:避難
い:断続
う:人造
え:急増
お:善良

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避ける難を:動詞と目的語の関係
写す真を:動詞と目的語の関係

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