このページは、司法書士試験に出題された民法の物権「先取特権」(第303条から第341条)をまとめたページになります。
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【民法物権】論点「先取特権」ガチ解説
先取特権の基本
第八章 先取特権
第一節 総則(第三百三条一第三百五条)
第二節 先取特権の種類
第一款 一般の先取特権(第三百六条-第三百十条)
第二款 動産の先取特権(第三百十一条-第三百二十四条)
第三款 不動産の先取特権(第三百二十五条-第三百二十八条)
第三節 先取特権の順位(第三百二十九条-第三百三十二条)
第四節 先取特権の効力(第三百三十三条-第三百四十一条)
第三百三条
「先取特権者」は、「この法律その他の法律の規定」に従い、その「債務者の財産」について、「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利」を有する。
「債権者平等の原則」の例外として、社会的公平や政策的な理由から、特定の債権者を特別に保護し、他の債権者よりも優先的に債権を回収させる権利(先取特権)を定めた基本条文です。
条文構造
【原則(債権者平等の原則)】
債務者の財産からは、すべての債権者が平等に(債権額の割合に応じて比例配分で)弁済を受けるのが民法の大原則です。
【例外(先取特権)】
しかし、法律が特別に定めた特定の性質を持つ債権(先取特権)については、公平の観点や債権者の生活保護のため、他の一般債権者を差し置いて「優先して」弁済を受けることができます。
【発生要件の特質】
当事者の合意(契約)は一切不要であり、**「法律の規定」**を満たすだけで当然に発生します。
留置的効力の否定:
先取特権は優先弁済を受けるための権利であり、目的物を手元に留め置く「留置的効力」はありません。
したがって、「先取特権があるから」という理由だけで目的物の返還を拒むことはできません(※要件を満たせば「留置権」を主張して拒むことは可能です)
第三百四条
「先取特権」は、その「目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷」によって「債務者が受けるべき金銭その他の物」に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、「その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した「物権の対価」についても、前項と同様とする。
304条の趣旨・要点
担保としていた目的物が別の形(お金など)に姿を変えた場合でも、その「変化したもの(価値代表物)」から優先的に借金を回収できるという担保物権の強力な性質(物上代位性)を定めた条文です。
条文の文言
「先取特権」:この条文は先取特権の規定に置かれていますが、質権や抵当権など、他の担保物権にも準用される(当てはまる)非常に重要な共通ルールのベースとなっています。
「目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷」:担保物が姿を変える原因です。売却なら「売買代金」、賃貸なら「賃料」、滅失(火事などで無くなること)や損傷なら「火災保険金や損害賠償金」に姿を変えます。
「債務者が受けるべき金銭その他の物」:目的物の身代わりとなったもの(価値代表物)です。まだ受け取っておらず、「これから受け取る権利(債権)」がある状態を指します。
「その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」:物上代位を行うための絶対条件です。現金が債務者の財布に入って他の現金と混ざってしまうと、どれが担保の身代わりだったのか分からなくなってしまう(特定性を失う)ため、債務者の手元に渡る前にストップをかける必要があります。また、二重払いの危険から第三債務者(保険会社や買主など)を守る意味もあります。
「物権の対価」:2項の規定。担保物に地上権などを設定して、その見返りとして受け取る地代などのことです。
【重要判例】物上代位と一般債権者の差押えの優先関係
一般債権者の差押えがあった後でも、先取特権者はその債権を差し押さえて物上代位権を行使することができます。
なぜなら、一般債権者は、たまたま債務者の財産を見つけて差し押さえただけであり、債権譲受人のように「取引によって債権を買い取った第三者」ではないので、強く保護する必要がない。
過去問: 動産の売主は、その動産が転売され、その転売に係る売買代金請求権が他の債権者によって差し押さえられた場合には、当該売買代金請求権について動産売買先取特権に基づく物上代位権を行使することができない。
解答表示
目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することは妨げられない
【重要判例】動産先取特権の物上代位と債権譲渡の優先関係
債権譲渡を受けた第三者の利益を保護するため、物上代位の目的となる債権(転売代金債権など)が第三者に譲渡され、第三者に対する対抗要件(確定日付のある証書による通知など)が備えられた「後」物上代位権を行使することはできません
過去問
AがBに甲動産を売り渡し、BがCに甲動産を転売したのち、BのCに対する転売代金債権をDに譲渡し、その債権譲渡について、第三者に対する対抗要件が備えられた。この場合において、Aは、動産売買の先取特権に基づき、当該転売代金債権を差し押さえて、物上代位権を行使することができる。
解答表示
公示方法の存在しない動産の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者を保護する趣旨から、動産の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使できない
第三百五条
「第二百九十六条の規定」は、「先取特権について準用」する。
※準用元である第296条(留置権の不可分性)を先取特権に読み替えた、実質的な条文の内容
「『先取特権者』は、『債権の全部の弁済を受けるまで』は、『目的物の全部』についてその権利を行使することができる。」
305条の趣旨・要点
担保物権の共通の性質である**「不可分性(ふかぶんせい)」**を定めた条文です。借金の一部を返してもらったからといって、1円でも未払いがある限り、担保物全体から回収を図ることができるという、債権者を強力に保護するルールです。
当事者の特約によって排除(変更)することが可能です
一般の先取特権
第三百六条 「次に掲げる原因」によって生じた債権を有する者は、「債務者の総財産」について先取特権を有する。
一 「共益の費用」
二 「雇用関係」
三 「葬式の費用」
四 「日用品の供給」
債務者が持っている「すべての財産」をターゲットにして優先的に借金を回収できる「一般の先取特権」の4つの種類を定めた条文です。
いずれも、社会的公平や人道的な配慮(生活の保障など)から特別に保護されています。
条文の文言
「共益の費用」:債務者の財産を守ったり、整理したりするために、債権者「全体」の利益のために使われた費用のこと(例:財産の競売手続きにかかった費用など)。全員のために使ったお金だから、一番に返してもらうべきという理由です。
「雇用関係」:未払いのお給料や退職金などのこと。従業員の生活を守るためです。
「葬式の費用」:債務者が亡くなった際のお葬式にかかった費用(身分相応の範囲内)。死者の尊厳を守り、葬儀を出した人を保護するためです。
「日用品の供給」:生活していくのに不可欠な食料品、飲料水、電気・ガス代などのこと。これが保護されないと、誰も貧しい人に生活必需品を売ってくれなくなってしまうからです。
第三百七条
「共益の費用の先取特権」は、「各債権者の共同の利益」のためにされた「債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用」について存在する。
2 前項の費用のうち「すべての債権者に有益でなかったもの」については、先取特権は、「その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ」存在する。
「みんなの利益のために身銭を切ってくれた人の分は、最初に清算(お返し)しよう」という、公平の理念に基づいた条文です。債務者の財産を維持したり、分け合ったりするための「必要経費」を立て替えた債権者を特別に保護します。
条文の文言
「債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用」:費用の具体例です。
保存:競売にかけられる予定の雨漏りする家を、価値が下がらないように修理した費用など。
清算・配当:財産を現金化して債権者たちで分配するための、裁判所への申立費用や手続き費用など。
「すべての債権者に有益でなかったもの」/「その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ」:立て替えた費用が「一部の債権者」にしか恩恵をもたらさなかった場合は、恩恵を受けていない無関係な債権者の取り分を減らしてまで優先回収することは許されない、という調整ルールです。
第三百八条
「雇用関係の先取特権」は、「給料その他」債務者と「使用人」との間の「雇用関係に基づいて生じた債権」について存在する。
労働者の生活の糧であるお給料の支払いを確保するため、勤め先(雇い主)が倒産などして財産が少なくなった場合に、他の一般の借金取りよりも優先して未払い分を回収できる権利を定めた、労働者保護のための極めて重要な条文です。
条文の文言
「給料その他」:毎月の基本給(給料)だけではありません。賞与(ボーナス)、退職金、解雇予告手当、さらには業務のために立て替えた交通費(身元保証金や立替金)なども広く含まれます。
「使用人」:いわゆる「従業員(労働者)」のことです。雇用契約を結んで、雇い主の指揮命令の下で働いている人を指します。
「雇用関係に基づいて生じた債権」:雇用契約という原因から直接発生した権利である必要があります。例えば、従業員が社長に個人的に貸したお金などは、雇用関係に基づいていないため、この先取特権の対象にはなりません。
第三百九条
「葬式の費用の先取特権」は、「債務者のためにされた葬式の費用」のうち「相当な額」について存在する。
2 前項の先取特権は、債務者がその「扶養すべき親族のためにした葬式の費用」のうち「相当な額」についても存在する。
人が亡くなった際の「弔い(お葬式)」は、死者の尊厳を守り、社会的な風習や公衆衛生の観点からも欠かせないものです。
そのため、お葬式にかかった費用を立て替えた人や、サービスを提供した葬儀会社が「他の借金取りに取られて、お葬式代を回収できない」という事態を防ぐために設けられた人道的な特権です。
条文の文言
「債務者のためにされた葬式の費用」:借金を抱えていた債務者本人が亡くなり、そのお葬式のためにかかった費用のことです(1項)。
「相当な額」:ここが一番の論点です。他の一般債権者(銀行など)の取り分を減らしてまで優先される権利であるため、「いくらでも無制限に優先される」わけではありません。亡くなった債務者の生前の身分、職業、財産状況や、その地域の風習などに照らし合わせて「常識的な範囲(身分相応)の金額」に限定されます。
「扶養すべき親族のためにした葬式の費用」:債務者本人ではなく、債務者が養っていた家族(子どもや配偶者など)が亡くなり、債務者がそのお葬式を出した場合の費用です(2項)。これも債務者にとって避けては通れない出費であるため、同様に保護されます。
条文構造
【原則(死者の尊厳と人道的保護)】
債務者本人、または債務者が扶養している親族のお葬式にかかった費用については、死者を弔うという人道的な観点から、債務者の「総財産」から他の債権者に優先して弁済を受けることができる。
【例外(金額の制限)】
ただし、その優先権が認められるのは、債務者の身分や財産状況に照らして**「相当な額(身分相応の常識的な範囲)」**に厳格に限定される。不相応に豪華な葬儀費用の超過分については、先取特権の対象から除外される。
第三百十条 「日用品の供給の先取特権」は、「債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人」の「生活に必要な」「最後の六箇月間」の「飲食料品、燃料及び電気の供給」について存在する。
お金に困っている人に対して、「ツケ(後払い)」で食料や電気などの生活必需品を売ってくれたお店や会社を特別に保護するための条文です。「もし代金を取りっぱぐれたら困るから、貧しい人には売らないでおこう」とお店側が躊躇してしまい、債務者が餓死してしまうような事態を防ぐ(最低限の生活を保障する)という人道的な目的があります。
条文の文言
「債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人」:誰が消費するためのものか、という対象者の範囲です。債務者本人だけでなく、一緒に住んで養っている家族(妻や子供など)や、住み込みのお手伝いさん(家事使用人)が生きるために必要なものも含まれます。
「生活に必要な」:生きていく上で欠かせない必需品に限定されます。高級メロンや高級ワインのような「贅沢品」は含まれません。
「最後の六箇月間」:期間の限定です。「最後(現在から遡って直近)の6ヶ月分」のツケ代だけが保護されます。それより昔の古いツケは、一般の借金と同じ扱いになります。
「飲食料品、燃料及び電気の供給」:日用品の具体例です。お米や水などの飲食料品、ガスや灯油などの燃料、そして電気が明記されています。なお、現代生活に不可欠とはいえ、水道料金は飲食料品に含まれると解釈されることが多いですが、インターネット代などは条文上含まれません。
条文構造
【原則(生活の保障)】
生活困窮者の生存を助けるため、生きていくのに不可欠な日用品をツケで供給した者は、その代金を債務者の「総財産」から他の債権者に優先して弁済を受けることができる。
【例外(範囲の厳格な限定)】
ただし、その優先権が認められる範囲は、対象者(同居親族・家事使用人など)、目的物(生活に必要な飲食料品・燃料・電気など)、そして期間(最後の6ヶ月間分のみ)に厳格に限定される。
動産の先取特権
第三百十一条 「次に掲げる原因」によって生じた債権を有する者は、「債務者の特定の動産」について先取特権を有する。
一 「不動産の賃貸借」
二 「旅館の宿泊」
三 「旅客又は荷物の運輸」
四 「動産の保存」
五 「動産の売買」
六 「種苗又は肥料」(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の「供給」
七 「農業の労務」
八 「工業の労務」
311条の趣旨・要点
債務者の「すべての財産」をターゲットにできる一般の先取特権(306条)とは異なり、債権の発生原因と密接な結びつきがある**「特定の動産(持ち込んだ荷物や、売った商品そのものなど)」**に限定して、そこから優先的に借金を回収できる権利(動産の先取特権)の8つの種類を定めた条文です。
条文の文言と、全8号の詳細解説
「債務者の特定の動産」:「債権の発生原因」と「ターゲットになる動産」の結びつき(牽連性)は厳格に決まっています。
一「不動産の賃貸借」:
どんな債権?:大家さんが借主に対して持つ「未払いの家賃」など。
ターゲットの動産:借主がその部屋(または土地)に備え付けた家具、家電、敷物などの「備品(動産)」。
二「旅館の宿泊」:
どんな債権?:旅館の主人が宿泊客に対して持つ「未払いの宿泊代」など。
ターゲットの動産:宿泊客が旅館内に持ち込んだカバン、時計、衣服などの「手荷物(動産)」。
三「旅客又は荷物の運輸」:
どんな債権?:鉄道会社や運送業者が持つ「未払いの運賃」や「送料」など。
ターゲットの動産:運送業者がまさに運んでいる最中の「荷物そのもの(動産)」。
四「動産の保存」:
どんな債権?:他人の動産が壊れたり腐ったりするのを防ぐためにかかった「修理代」や「保管料」など。
ターゲットの動産:修理や保管をしてあげた「その動産そのもの」。
五「動産の売買」:
どんな債権?:商品を売ったお店が買主に対して持つ「未払いの売買代金」。
ターゲットの動産:お店が売った「その商品そのもの(動産)」。
*債務者の動産ではない盗品などの場合には、先取特権が成立しない。
過去問
乙は甲の所有するゴッホの絵を盗み出し、第三者に売却することをもくろんで、事情を知らない丙に傷んだ箇所の修復を依頼した。丙は、修復作業を終えたところ、甲から絵の返還を求めた。この場合、丙は、動産保存の先取特権を有することを理由として、甲に絵の返還を拒むことができる。
解答表示
先取特権には優先弁済権はありますが、物を手元に留め置く「留置的効力」はありません。したがって「先取特権」を理由に返還を拒むことはできません(※ただし、要件を満たせば「留置権」を主張して拒むことは可能です)
六「種苗(しゅびょう)又は肥料の供給」:
どんな債権?:農家に種や苗、肥料を売った業者が持つ「未払いの代金」。
ターゲットの動産:その種や肥料を使って農家が育てた「農作物(動産)」。
七「農業の労務」:
どんな債権?:農家に雇われて農作業をした人が持つ「未払いの給料」。
ターゲットの動産:その労働によって実った「農作物(動産)」。
八「工業の労務」:
どんな債権?:工場などに雇われてモノづくりをした人が持つ「未払いの給料」。
ターゲットの動産:その労働によって製造された「製品(動産)」。
条文構造
動産の先取特権は、**「債権の発生原因」と「ターゲットになる動産」の結びつき(牽連性)**によって正当化される権利です。
【原則(原因とターゲットの対応関係)】
① 貸室の家賃(不動産賃貸借) = 部屋にある家具や備品
② 旅館の宿泊代(旅館の宿泊) = 客の持ち込んだ手荷物
③ 運送代(旅客・荷物の運輸) = 運んでいる荷物
④ 修理代・保管料(動産の保存) = 修理・保管した物
⑤ 商品の代金(動産の売買) = 売った商品
⑥ 種・肥料の代金(種苗肥料の供給)= 育った農作物
⑦ 農作業の給料(農業の労務) = 収穫した農作物
⑧ 工場作業の給料(工業の労務) = 製造した製品
第三百十二条
「不動産の賃貸の先取特権」は、その「不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務」に関し、「賃借人の動産」について存在する。
大家さん(賃貸人)にとって、家賃の回収は死活問題です。
そこで、借主(賃借人)が家賃を払わなくなった場合に備えて、借主がその部屋(貸し出している不動産)に持ち込んでいる家具や家電などを「一種の担保」として扱い、そこから優先的に未払い家賃を回収できるという、大家さんを強力に保護する条文です。
条文の文言
「不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務」:「債権(大家さんが請求できるお金)」の範囲です。「毎月の家賃(賃料)」だけでなく、共益費、管理費、退去時の原状回復費用、家賃滞納による損害賠償金など、「その部屋を貸したこと(賃貸借契約)」から発生したあらゆる債務が幅広く含まれます。
「賃借人の動産」:「担保(回収の対象)」です。借主がアパートの部屋の中に置いているテレビ、冷蔵庫、タンスなどの家具・家電類や、貸し土地の上に停めている車などの動産を指します。
第三百十三条
「土地の賃貸人」の先取特権は、その「土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産」、その「土地の利用に供された動産」及び「賃借人が占有するその土地の果実」について存在する。
2 「建物の賃貸人」の先取特権は、賃借人が「その建物に備え付けた動産」について存在する。
大家さん(賃貸人)が家賃などを回収するためにターゲットにできる借主の「動産」の範囲を、**「土地を貸した場合(1項)」と「建物を貸した場合(2項)」**に分けて具体的に指定した条文です。
貸している不動産と物理的・機能的に結びついている物だけが対象になります。
条文の文言
「土地の賃貸人 / 建物の賃貸人」:何を貸しているかによって、ターゲットにできる動産の広さが変わります(土地の方が広いです)。
「土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産」:(土地を貸した場合)その土地の上に置いてある物や、借主がその土地に建てた物置小屋・家の中に入っている家具などのことです。
「土地の利用に供された動産」:(土地を貸した場合)例えば農地を貸している場合の、トラクターやクワなどの農機具のことです。
「賃借人が占有するその土地の果実」:(土地を貸した場合)ここでの「果実(天然果実)」とは、その土地から生み出された収穫物のことです。借主が育てて収穫した大根や米などが含まれます。
「その建物に備え付けた動産」:(建物を貸した場合)アパートや貸店舗の部屋の中に借主が持ち込んでいるテレビ、冷蔵庫、タンス、お店の陳列棚などのことです。
条文構造
貸している不動産の種類(土地か建物か)によって、優先回収のターゲットにできる動産の範囲が明確に分けられています。
【原則①:土地を貸した場合のターゲット(広範囲)】
土地の上や、土地上の建物の中にある動産(家具や備品など)
土地を使うための動産(トラクターなどの農機具など)
その土地から生み出された果実(収穫した農作物など)
【原則②:建物を貸した場合のターゲット(限定的)】
その建物(部屋)の中に備え付けられた動産(家具、家電、店舗の什器など)のみ。
第三百十四条
「賃借権の譲渡又は転貸の場合」には、賃貸人の先取特権は、「譲受人又は転借人の動産」にも及ぶ。「譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭」についても、同様とする。
借主が別の人に部屋を明け渡してしまった場合、部屋の中から借主本人の家具(担保)が消えてしまい、大家さんが家賃を回収できなくなる恐れがあります。
そこで、新しく部屋に入ってきた人の家具や、元の借主が受け取る「又貸し家賃」なども、大家さんの優先回収(先取特権)のターゲットにできるようにして、大家さんを保護する条文です。
条文構造
【原則①:ターゲット(動産)の拡張】
借主が第三者に権利を譲渡・転貸した場合、大家の先取特権のターゲットは、元の借主の動産だけでなく、新しく入居した「第三者(譲受人・転借人)が持ち込んだ動産」にも自動的に拡張される。
【原則②:ターゲット(金銭)の拡張】
さらに、元の借主が第三者から受け取る予定の「譲渡代金や転貸賃料(金銭)」に対しても、大家は先取特権を行使して優先的に弁済を受けることができる。
第三百十五条 「賃借人の財産のすべてを清算する場合」には、賃貸人の先取特権は、「前期、当期及び次期」の「賃料その他の債務」並びに「前期及び当期」に生じた「損害の賠償債務」について「のみ存在する」。
大家さんの先取特権は非常に強力ですが、借主が破産するなどして「すべての債権者で残りの財産を分け合う」場面になったとき、大家さんだけが「過去5年分の滞納家賃すべて」を優先的に持っていってしまうと、他の一般債権者(銀行など)が1円も回収できず不公平になります。
そこで、他の債権者とのバランスを取るために、大家さんが優先回収できる家賃の期間を「一定の短い期間」に限定した条文です。
条文の文言
「賃借人の財産のすべてを清算する場合」:借主が自己破産をした場合や、他の債権者が借主の財産に対して強制執行(差し押さえ)をかけてきた場合など、総掛かりで財産の清算が行われる場面を指します。
「前期、当期及び次期」:優先回収できる期間の限定です。「期」とは家賃の支払いサイクルのことで、月払いなら「月」、年払いなら「年」になります。つまり月払いのアパートなら「先月分、今月分、来月分」の合計3ヶ月分だけが優先対象になります。
「賃料その他の債務」:家賃や共益費などです。これらは「前期・当期・次期」の3期分が対象です。
「前期及び当期」:損害賠償についての期間限定です。損害は未来(次期)にはまだ発生していないため、「次期」は含まれず「先月分と今月分」のみとなります。
「損害の賠償債務」:家賃の遅延損害金(滞納ペナルティ)や、部屋を壊したことによる修理代などのことです。
「のみ存在する」:これ以外の古い滞納分については先取特権(優先権)が消滅し、ただの「一般の借金」と同じ扱いになるという意味です。
条文構造
【原則(清算時の期間制限)】
借主が破産するなど全財産を清算する事態になった場合、大家が先取特権で優先回収できる範囲は以下の期間「のみ」に制限される。
① 家賃など:「前期・当期・次期」の3期分
② 損害賠償:「前期・当期」の2期分
【例外(通常時の取り立て)】
裏を返せば、借主が破産などをしておらず、大家が「単独で」家賃滞納を理由に借主のテレビなどを差し押さえるような通常場面(すべての清算ではない場合)においては、このような期間制限はなく、過去の滞納分すべてについて先取特権を行使できる。
第三百十六条 「賃貸人」は、「第六百二十二条の二第一項に規定する敷金」を「受け取っている場合」には、「その敷金で弁済を受けない債権の部分」について「のみ」先取特権を有する。
316条の趣旨・要点
大家さんがすでに「敷金」という強力な現金担保(いつでも家賃の補填に回せるお金)を預かっているなら、まずはその敷金から家賃を回収しなさい、というルールです。敷金でお釣りがくるのに、わざわざ借主の家具を差し押さえるような「二重取り」や「過剰な取り立て」を防ぐ目的があります。
条文の文言
「受け取っている場合」:大家さんの手元に、借主から預かった敷金がキープされている状態を指します。
「その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ」:ここが最重要ポイントです。「滞納家賃の総額」から「預かっている敷金」をマイナスして、**それでも足りない部分(手出しになる部分)**にだけ、先取特権(借主の家具などを差し押さえる権利)を使えるという意味です。
条文構造
【原則(敷金による充当の優先)】
大家が敷金を預かっている場合、滞納家賃などの債権は、まずその手元にある「敷金」から優先して差し引いて清算しなければならない。
【例外(先取特権の縮減)】
その結果、大家が不動産賃貸の先取特権(動産の差し押さえなど)を行使できるのは、債権全額に対してではなく、敷金を差し引いても**「なお足りない未払い部分(残額)」のみ**に制限される。
第三百十七条
「旅館の宿泊の先取特権」は、宿泊客が負担すべき「宿泊料及び飲食料」に関し、「その旅館に在る」その「宿泊客の手荷物」について存在する。
ホテルや旅館の経営者を「無銭宿泊」や「無銭飲食」から守るための条文です。
宿泊業は、客を信用して先に部屋や食事を提供し、後で料金を精算するシステムが一般的であるため、もし客がお金を払えなかった場合の担保として、客が持ち込んでいる荷物を押さえる権利を認めています。
条文の文言
「旅館の宿泊の先取特権」:名称は「旅館」となっていますが、現代ではビジネスホテルやリゾートホテル、民宿など、宿泊施設全般に広く適用されます。
「その旅館に在る」:この特権を行使するための「場所的・時間的な限界」を示しています。客室に置いている荷物や、フロント(クローク)に預けている荷物など、現在その施設の敷地・支配下にあるものに限られます。
「宿泊客の手荷物」:ターゲットとなる動産です。旅行カバン、衣服、時計、カメラ、パソコンなど、客が施設内に持ち込んだ物品を指します。
条文構造
【原則(宿泊業者の保護)】
旅館やホテルの経営者は、宿泊客の「宿泊代や飲食代」を取りはぐれないよう、客が「施設内に持ち込んでいる手荷物」から優先的に弁済を受けることができる。
【例外(場所的・時間的制限)】
ただし、ターゲットにできるのは「その旅館に在る」手荷物のみである。客がチェックアウトして荷物を施設外へ持ち出してしまった後では、この特権を行使して優先回収することはできない。
第三百十八条
「運輸の先取特権」は、「旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用」に関し、「運送人の占有する荷物」について存在する。
トラック、鉄道、船舶などの運送業者が、客から運賃を取りはぐれる(払い渋られる)リスクを防ぐため、運送業者が「運んでいる最中の荷物(または預かっている荷物)」をそのまま担保として押さえ、そこから優先的に運賃を回収できる権利を定めた条文です。
条文の文言
「運輸の先取特権」:物を運ぶこと(モノの運送)だけでなく、人を運ぶこと(旅客の運送)にも適用されます。
「旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用」:優先回収できる債権の範囲です。荷物の送料や人間の乗車券代(運送賃)だけでなく、荷物の積み下ろしにかかった費用や、一時的な倉庫への保管料、運送中の荷物を守るためにかかった費用など(付随の費用)も広く含まれます。
「運送人の占有する荷物」:ターゲットとなる動産です。「占有する」とは、運送業者が現在自分の手元でキープしている状態のことです。旅客運送(人を運ぶ場合)のときは、客が持ち込んでいる「手荷物」がターゲットになります。
第三百十九条
第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。
(即時取得)第百九十二条
(盗品又は遺失物の回復)第百九十三条、第百九十四条
(動物の占有による権利の取得)第百九十五条
第三百十二条から前条までの規定による先取特権
不動産賃貸、旅館の宿泊、運輸についての先取特権
【319条によって読み替えられた実質的な条文(第192条・193条ベース)】
「(大家・旅館の主人・運送業者が)平穏に、かつ、公然と、『借主・宿泊客・客が持ち込んだ動産』の占有を始めた(=自らの支配下に置いた)場合において、その動産が『実は他人の物』であったとしても、そのことについて『善意であり、かつ、過失がない』ときは、即時にその動産について『先取特権を取得する』。」
「ただし、その目的物が『盗品又は遺失物』であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から『二年間』は、先取特権者に対し、その物の回復(返還)を請求することができる。」
「相手の持ち物だと信じた(善意・無過失の)人を守る」という即時取得のルールを、3つの動産先取特権(不動産賃貸、旅館の宿泊、運輸)に当てはめます。借主や客が他人の物を勝手に持ち込んでいた場合でも、大家さんなどの特権を有効に成立させるための救済ルールです。
条文の文言(読み替え後)
「即時に先取特権を取得する」:本来、他人の財産を勝手に借金のカタ(担保)にすることはできません。しかし、善意・無過失の条件を満たせば、例外的に「有効な先取特権」がパーフェクトに成立します。
「盗品又は遺失物」「二年間」:もし持ち込まれた動産が、泥棒した物や拾った物だった場合の例外ルール(193条の準用)です。本当の持ち主は、2年以内なら「それは私の物だから返して」と主張でき、その場合、大家さんの先取特権は消滅してしまいます。
第三百二十条
「動産の保存の先取特権」は、「動産の保存のために要した費用」又は「動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用」に関し、「その動産について存在する」。
他人の動産が壊れたり腐ったりするのを防ぎ、その価値を維持するために自腹を切った人は、その動産から優先的にかかった費用を回収できるというルールです。その人が費用を出したおかげで財産の価値が守られたのだから、他の債権者よりも優先して報われるべきという「公平の理念」に基づいています。
条文の文言
「動産の保存の先取特権」:他人の動産(時計、ペット、荷物など)を維持・保存した人が、その動産を競売にかけるなどして、他の債権者よりも優先して借金(費用)を返してもらえる強力な権利(法定担保物権)です。
「動産の保存のために要した費用」:動産の滅失や毀損を防ぎ、現状を維持するためにかかったお金のことです。例えば、他人の壊れかけた高級時計を修理した代金、他人のペットが病気になったときの獣医への治療費、腐りやすい生鮮食品を冷蔵倉庫に保管したときの保管料などが該当します。
「動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用」:動産そのものではなく、その動産に関する「権利」を守るため(裁判を起こして時効を更新するなど)、相手に権利を認めさせるため、あるいは強制執行の手続きをするためにかかった費用のことです。
「その動産について存在する」:費用をかけて守った、まさに「その特定の動産」から優先的に弁済を受ける権利があるということです。別の財産から優先的に回収できるわけではありません。
国民的アニメのストーリー風
スネ夫が大事にしている超高級ラジコン(動産)を、のび太が借りて遊んでいました。しかし、のび太の不注意でラジコンから煙が出て、今にも爆発して壊れそうになってしまいました。慌てたのび太は、通りかかった機械に詳しい出木杉くんに「頼む!直して!」と泣きつき、出木杉くんは自分の部品と道具を使ってラジコンを修理し、完全に直してあげました(動産の保存のために要した費用)。
しかし、のび太は修理代を払わず、スネ夫も「僕はいじってないから知らない」と言って払ってくれません。
要件: 他人の動産(ラジコン)の滅失や毀損を防ぐために、費用(修理代・部品代)を支出したこと。
効果: 出木杉くんは、修理代を回収するために、そのラジコンに対して「動産保存の先取特権」を持ちます。最悪の場合、このラジコンを競売にかけて、その売上から他の誰よりも優先して修理代を返してもらうことができます。
条文構造
【原則】 他人の動産の価値を維持・保存するために費用を立て替えた者は、その特定の動産から「優先的」に費用を回収できる(動産保存の先取特権)。
※理由:その人の支出によって財産が守られたのだから、優先して保護されるのが公平だから。
【例外・制限】 優先的に回収できるのは、あくまで自分が費用をかけて保存した「その動産」に限られる。また、動産そのものが完全に燃えて無くなってしまったような場合は、権利を行使する対象がなくなるため先取特権も消滅する。
第三百二十一条
「動産の売買の先取特権」は、「動産の代価及びその利息」に関し、「その動産について存在する」。
物を売ったのに代金をもらえていない売主を保護するためのルールです。
買主が代金を払わない場合、売主は自分が売った「まさにその物」を差し押さえて競売にかけ、他の債権者よりも優先して代金を回収することができます。売主の財産(売った物)が買主の財産に混ざって買主の財産を増やしているのだから、その価値を取り戻す権利を優先的に認めるという公平の理念に基づいています。
条文構造
【原則】 動産の売主は、買主が代金を支払わない場合、自分が売却した「その動産自体」から、代金とその利息を「優先的」に回収できる(動産売買の先取特権)。
※理由:買主の財産の中に、売主が提供した財産(価値)がそのまま残っているため、そこから優先して取り戻すのが公平だから。
【例外・制限】 * 目的物の限定: 優先的に回収できるのは、自分が売った「その動産」だけである。
第三者への引き渡しによる消滅:
買主がその動産を第三者に転売し、引き渡してしまった後は、もはやその動産に対して先取特権を行使することはできない(第三者保護の例外)。
動産売買の先取特権における「請負代金」への物上代位の制限
材料売り主ー材料買主(請負人)ー請負を依頼した客
建物の材料(動産)を売った売主は、買主(請負人)がその材料を使って建物を建築した場合、原則として、請負人が注文者から受け取る「請負代金」に対して物上代位権を行使することはできません(請負代金は材料費だけでなく、労働力などの様々な価値が含まれているため)。
ただし、請負契約の中で「この部分が材料の代金だ」と明確に区別されているなど、請負代金債権の一部を材料の転売代金債権と同視できるような「特段の事情」がある場合に限り、例外的に物上代位が認められます。
第三百二十二条 種苗又は肥料の供給の先取特権は、種苗又は肥料の代価及びその利息に関し、その種苗又は肥料を用いた後一年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。
第三百二十三条 農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の一年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について存在する。
第三百二十四条 工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の三箇月間の賃金に関し、その労務によって生じた製作物について存在する。
第三款 不動産の先取特権
不動産の先取特権
第三百二十五条
「次に掲げる原因」によって生じた債権を有する者は、債務者の「特定の不動産」について「先取特権」を有する。
一 「不動産の保存」
二 「不動産の工事」
三 「不動産の売買」
条文の文言
「不動産の保存」:今ある不動産が滅失したり価値が下がったりするのを防ぐための行為(例:崩れそうな家の緊急修繕費など)。
「不動産の工事」:不動産に新たな価値を付け加える行為(例:家を新築する大工さんの工事代金など)。
「不動産の売買」:不動産を売ったのに、まだ代金や利息を払ってもらっていない場合の売買代金。
条文構造
【原則】 「不動産の保存」「不動産の工事」「不動産の売買」によって生じた債権を持つ者は、当事者の合意がなくても、その「特定の不動産」について優先的に弁済を受ける権利(不動産の先取特権)を法律上当然に取得する。
【例外(特質と制限)】 法律上当然に発生する権利であるが、第三者の不測の損害を防ぐため、効力を保つ(あるいは優先権を確保する)ためには、それぞれの原因ごとに厳格な「登記」の手続きが要求される。
たとえば工事の先取特権なら「工事を始める前」に費用の予算額を登記しておかなければならないなど、強力ゆえに厳しい制限がある。
先取特権消滅請求(341→379条の準用)
先取特権(登記済み)がついている不動産を買った人が、いつ先取特権者によって家を競売にかけられるか分からないという不安定な立場から自ら抜け出すために、一定の金額を提示して「いつでも」その厄介な権利(先取特権)を消し去ることができるようにした制度です。
先取特権者がこれを拒否する場合、単に「嫌だ」と言うだけでは足りず、厳格な期間内(原則2ヶ月以内)に自ら競売を申し立てて、不動産を換価する手続きに進まなければならない。沈黙していると、第三取得者の提示額で消滅請求が認められてしまう。
第三百二十六条 不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。
(不動産工事の先取特権)
第三百二十七条 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
2 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。
(不動産売買の先取特権)
第三百二十八条 不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。
先取特権の順位
第三百二十九条 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。
2 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。
第三百六条各号:一般の先取特権の優先ランキング
一 共益の費用
二 雇用関係
三 子の監護の費用
四 葬式の費用
五 日用品の供給
第三百三十条 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権
二 動産の保存の先取特権
三 動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
2 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
3 果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。
同一の不動産に複数の「保存」の先取特権者がいる場合、動産のルールが類推適用され、「後から保存した者が、前の保存者に優先」します(最新の価値維持に貢献した者を優先するため)。
第三百三十一条 同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百二十五条各号に掲げる順序に従う。
2 同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。
第三百二十五条各号:不動産の先取特権優先ランキング
一 「不動産の保存」
二 「不動産の工事」
三 「不動産の売買」+売買の先後(前が優先)
Ⅱ項:前の売買を優先させる理由
不動産売買の先取特権は、「売買と同時に未払いの登記」をしなければ効力が発生しません(340条)。前の売主がきちんと登記をしていれば、後の売買の当事者(転売の買主など)は、「あ、この土地にはまだ前の売主の未払い代金(負担)がくっついているな」と分かった上で取引をしているはずです。したがって、前から存在している権利を優先させるのが筋だからです。
※動産保存(330条3項)の「後の恩人が優先(最新の恩人が偉い)」とは逆の考え方になります。
第三百三十二条 同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。
先取特権の効力
第三百三十三条
「先取特権」は、「債務者」が「その目的である動産」をその「第三取得者」に「引き渡した後」は、その動産について「行使することができない」。
動産の先取特権は、不動産と違って「登記」のような目に見える権利の印がありません。
取引の安全の観点から、第三者を保護しようとした条文です。
⇒不動産の先取特権には適用されません(引き渡された後も行使可能です)
条文の文言
「引き渡した後」:「占有改定」という方法での引渡しでも、この「引渡し」に含まれるとするのが判例の立場です。
第三者の善意・悪意は不問:
第三者が「先取特権がついていること」を知っていた(悪意であった)としても、引き渡されれば行使できなくなります。
「第三取得者」の範囲:
第三取得者とは「所有権を取得した者」のことです。
単に動産を預かっただけの「倉庫業者(受寄者)」や「賃借人」、「質権の設定を受けた者」は第三取得者に当たらないため、彼らの元にある間は先取特権を行使できます。
過去問
動産売買の先取特権の目的物である動産について、買主が第三者に質権を設定して引き渡したときは、当該動産の売主は、当該先取特権を行使することができない。
解答表示
「第三取得者(333)」とは、所有権取得者をいい、質権の設定を受けたにすぎない者は、たとえ引渡しを受けていても第三取得者に当たらない
「ランキング(優先順位)で勝つか負けるか」という話(民法334条)と、「そもそも先取特権を行使できるかできないか(権利が消滅するかどうか)」という話(民法333条)は、全く別の次元の問題として切り分けて考える必要があります。
もし動産質権者が目的物を競売にかけて自身の借金を回収した後、売却代金に「余り(残額)」が出た場合、第3順位である動産売買の先取特権者はその余ったお金から配当を受けることができます。
★まとめ★
民法334条(優先順位): 動産質権(1位) > 動産売買の先取特権(3位)なので、順番は質権者が先。
民法333条(権利の存続): 質権者は所有権者ではないので、質権者に物が渡っても先取特権は消滅しない(行使できる)。
第三百三十四条 「先取特権」と「動産質権」とが「競合」する場合には、「動産質権者」は、「第三百三十条の規定による第一順位の先取特権者」と「同一の権利を有する」。
第三百三十条:動産先取特権には強さのランキング
一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権、「動産質権者」が加わる
理由:事実上「人質(物質)」に取っている状態(留置的効力)を尊重するため
二 動産の保存の先取特権(複数人の場合、後の保存者が前の保存者に優先)
理由:物が消滅するのを防いだ「命の恩人」だから(共益性)、「最新の恩人」が一番偉い
三 動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
理由:財産を「増やしてあげた」貢献者だが、緊急性や占有の強さには劣るため
条文の文言
「同一の権利を有する」:
動産質権者は、この「第1順位の先取特権者」と同等の強さを持つ(同順位になる)ということです。同順位の者同士がぶつかった場合は、それぞれの債権額の割合に応じて按分(割り勘)して配当を受けることになります。
「同一の権利を有する」ということは、第1順位の先取特権者同士のルール(330条2項)も適用されます。
つまり、後から権利を取得した動産質権者が、先に第1順位の先取特権が存在していることを「知っていた(悪意)」場合は、ペナルティとしてその先取特権者に劣後(負け)することになります。
国民的アニメのストーリー風
質屋と旅館の主人のバトル(動産質権 vs 先取特権)
舞台と登場人物:
出木杉(時計屋。売主。「動産売買の先取特権=第3順位」を持っている)
スネ夫(旅館の主人。「旅館の宿泊の先取特権=第1順位」を持っている)
のび太(質屋。「動産質権」を持っている)
ジャイアン(債務者。買主。宿泊客。質権設定者。高級時計を持っているが、お金がない)
ストーリー:
ジャイアンは、出木杉の時計屋で高級時計をツケ(後払い)で買いました。出木杉は時計の代金をもらうため「動産売買の先取特権(第3順位)」を持っています。
その後、ジャイアンはその時計を腕につけてスネ夫の旅館に長期間泊まりましたが、宿泊代を払わずに逃げようとしました。スネ夫は宿泊客の荷物である時計に対して「旅館の宿泊の先取特権(第1順位)」を取得します。
さらにお金に困ったジャイアンは、その時計をのび太の質屋に持っていき、時計を預けてお金を借りました。のび太は時計を預かり「動産質権」を取得しました。
ついにジャイアンは自己破産し、時計を競売にかけてスネ夫、のび太、出木杉の3人で代金を分けることになりました。
誰が一番優先されるのでしょうか?
原則: のび太の「動産質権」は、民法上、一番強いスネ夫の「第1順位の先取特権」と同じ強さ(同順位)として扱われます。
同順位となったスネ夫(旅館)とのび太(質屋)は引き分けとなり、時計が売れた代金は、スネ夫とのび太の貸している金額の割合に応じて分け合うことになります。
そのため、出木杉(第3順位)はのび太にもスネ夫にも勝てず、一番後回しになります。
例外(注意!):
もし、のび太(動産質権者)が時計を質に取る際、「あ、この時計、まだ出木杉の時計屋さんに代金を払ってない(第3順位の先取特権がある)やつだ!」と知っていた(悪意だった)場合は話が変わります。
すでに第1順位の権利があることを知っていながら手を出したのび太は保護されないため、例外的にスネ夫に負けてしまいます。この場合は、スネ夫が先に全額もらい、余った分のび太がもらうことになります。
のび太は本来「第1順位」と同じパワーを持っていますが、すでに出木杉の権利(第3順位)があることを知っていながら手を出したため、ペナルティとして**例外的に出木杉に劣後する(負ける)**ことになります。
この場合、落ち度のないスネ夫は本来もらえるはずだった自分の取り分をしっかり全額確保し、のび太の取り分の中から、出木杉が優先して代金を回収することになります(結果として、悪意だったのび太が自腹を切る形で大損をします)。
第三百三十五条
1 「一般の先取特権者」は、まず「不動産以外の財産」から弁済を受け、「なお不足があるのでなければ」、「不動産から弁済」を受けることができない。
2 一般の先取特権者は、「不動産」については、まず「特別担保の目的とされていないもの」から弁済を受けなければならない。
3 一般の先取特権者は、「前二項の規定に従って配当に加入することを怠った」ときは、「その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額」については、「登記をした第三者」に対してその先取特権を行使することができない。
4 「前三項の規定」は、「不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当」し、又は「他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当」する場合には、「適用しない」。
一般の先取特権は、債務者の「総財産」から優先して弁済を受けられる非常に強力な権利です。
しかし、登記がなくても主張できるため、いきなり不動産から取り立てをされると、その不動産に抵当権などを設定していた他の債権者が不測の損害を被るおそれがあります。そこで、他の権利者を保護するために「取り立てる財産の順番(補充性)」を定めた条文です。
条文の文言
「配当に加入することを怠ったとき」:動産などの競売があったのに、一般の先取特権者が自分の権利を主張して配当金(お金)を受け取りに行くのをサボったとき。
「その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額について」:サボったせいで取りはぐれた金額分については、ペナルティとして、後から不動産の登記を備えた抵当権者や買受人に対して「やっぱり不動産から払って!」と主張できなくなります。
「前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当(中略)する場合には、適用しない」:たまたま動産よりも不動産の方が先に競売にかけられて現金化された場合は、この順番待ちのルールに縛られず、先に不動産の代金から弁済を受けてもよいという例外規定です。
条文構造
【原則①:財産の種類による制限】
一般の先取特権者は、まず「不動産以外の財産(動産など)」から弁済を受け、不足分についてのみ「不動産」から弁済を受けられる。
【原則②:不動産間の制限】
不動産から弁済を受ける場合、まず「特別担保(抵当権など)がついていない不動産」から弁済を受け、不足分についてのみ「特別担保がついている不動産」から弁済を受けられる。
【ペナルティ(3項)】
上記【原則①②】のルールを無視して、動産などから配当を受けるのを怠った場合、「怠らなければ受け取れたはずの額」については、不動産の登記をした第三者(抵当権者など)に先取特権を主張できなくなる。
【例外(4項):実行の順番が前後した場合】
たまたま不動産の方が動産よりも先に換価・配当されるような場合には、例外として【原則①②】の順序制限は適用されず、そのまま不動産から優先して弁済を受けることができる。
第三百三十六条
「一般の先取特権」は、「不動産」について「登記をしなくても」、「特別担保を有しない債権者」に「対抗することができる」。ただし、「登記をした第三者」に対しては、「この限りでない」。
条文構造
【原則】 (無担保債権者への優先)
一般の先取特権者は、不動産について「登記がなくても」、無担保の一般債権者(特別担保を有しない債権者)には優先して弁済を受けることができる(対抗できる)。
【例外】 (登記を備えた第三者への劣後)
ただし、一般の先取特権者は、不動産について「登記をしていない」場合、抵当権者や買受人など「登記を備えた第三者」には優先権を主張できない(対抗できない)。
「登記をした第三者」に対抗できない
⇒「登記をした不動産売買の先取特権者」が該当するので、「登記の先後(177)」で勝敗が決まります
⇒「登記をした抵当権者」も該当
第三百三十七条
「不動産の保存の先取特権」の「効力を保存するため」には、「保存行為が完了した後直ちに」「登記をしなければならない」。
緊急で不動産の保存(修繕など)を行った者は、その不動産が崩壊・滅失するのを防いだ「命の恩人」であるため、他の債権者よりも極めて強力な優先権を与えられます(※この登記をすれば、すでに登記されていた抵当権者よりも優先して勝つことができます=民法339条)。
しかし、そのような強力な権利をいつまでも隠し持たれては他の債権者が不測の損害を被るため、「工事が終わったら、大至急(直ちに)登記をしなさい」という厳しい時間制限を課した条文です。
【効果とペナルティ】
要件を満たした場合: 効力が保存され、先に登記されていた抵当権等にも優先する強力な権利となる(※民法339条による効果)。
要件を満たさない(直ちに登記しなかった)場合: 効力は保存されず、登記を備えた第三者に対して優先権を主張できなくなる。
第三百三十八条 1 「不動産の工事の先取特権」の「効力を保存するため」には、「工事を始める前」にその費用の「予算額を登記」しなければならない。この場合において、工事の費用が「予算額を超える」ときは、先取特権は、「その超過額については存在しない」。
2 工事によって生じた「不動産の増価額」は、「配当加入の時」に、「裁判所が選任した鑑定人に評価」させなければならない。
不動産工事(新築や増改築など)を行った大工さんや施工業者を保護する条文です。工事によって不動産の価値を高めた貢献者には、すでに登記されている抵当権者よりも優先して代金をもらえるという強力な特権が与えられます(民法339条による効果)。
しかし、後から「工事に5000万円かかったから全部先にもらうぞ!」と言い出すと、抵当権者が大損害を受けます。
そこで、「事前にいくらかかるか(予算)を登記して、他の債権者に心構えをさせておくこと」を条件に、強力な優先権を認めることにしました。
※不動産工事の先取特権は、この「価値がアップした分(増価額)」の範囲内でしか優先権を主張できません(民法327条2項)。
工事が建物の新築工事である場合でも例外なく「工事の開始前」にその費用の予算額を登記しなければなりません
建物所有権保存登記は、建物が完成しなくても、出来上がる前からできるのか?
⇒できる。「新築予定の建物」用の登記記録を事前作成する特別ルール(不動産登記法86条)
過去問
不動産工事の先取特権を保存するには、その工事の開始前にその費用の予算額を登記しなければならないが、その工事が建物の新築工事であるときは、建物自体が存在しないので、建物の建築後直ちに登記すれば足りる。
解答表示
不動産工事の先取特権は、その工事の開始前にその費用の予算額を登記しなければ第三者に対抗することができない(338 I)。工事が建物の新築工事であるときも同様である。
第三百三十九条 前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。
不動産保存・不動産工事の先取特権は、規定に従った登記をすれば抵当権に優先する
不動産売買は、177条によって、登記の先後によって抵当権と対抗関係となる
第三百四十条 「不動産の売買の先取特権」の「効力を保存するため」には、「売買契約と同時に」、「不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記」しなければならない。
不動産を売ったのに代金をもらっていない売主を保護するための条文です。売主は、売った不動産自体から優先して未払い代金を回収できる「不動産売買の先取特権」を持ちます。しかし、登記簿上はすでに買主の名義になっているため、事情を知らない第三者(買主にお金を貸す銀行など)がその不動産を担保にしてしまう可能性があります。
そこで、第三者に不測の損害を与えないよう、「売買契約と同時に(=所有権移転登記と同時に)」「まだ代金をもらっていないこと」を登記簿に堂々と宣言した場合にのみ、強力な優先権の効力を認めることにしたルールです。
過去問
不動産の売買の先取特権は、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記した場合には、その前に登記された抵当権に先立って行使することができる。
解答表示
不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨の登記をしなければならない(340)。
これは、先取特権と抵当権の効力の優劣は、その登記の前後によるということを定めたものである。
したがって、不動産の売買の先取特権は、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記した場合には、その前に登記された抵当権に先立って行使することはできない。
第三百四十一条 先取特権の効力については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。
抵当権と同様に、先取特権についても第三取得者による「消滅請求」の対象となります(379)



