【司法書士試験対策】民法(物権)第3章:所有権(民法206条~264条)

第三章 所有権

ディスプレイ

第一節 所有権の限界

第一款 所有権の内容及び範囲(206条~208条)

(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

(土地所有権の範囲)
第二百七条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

第二百八条 削除

第二款 相隣関係(209条~238条)

(隣地の使用)
第二百九条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4 第一項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

境界付近で工事などをするために必要な場合、お隣さんの土地を使わせてもらえる権利を定めた条文です。

この条文の趣旨
土地の所有権の円滑な行使と、相隣関係の調整にあります。
自分の土地だからといって何をしても良いわけではなく、隣の土地との関係で一定の制約を受けます(所有権の社会的制約)
そこで、法律は一定の目的で必要な範囲内に限り、隣地所有者の意思に関わらず、その土地を使用する権利を認めました。

覚えるべき法律用語
償金 (しょうきん):
適法な行為によって他人に与えた損害を補填するためのお金。
不法行為に対する「損害賠償」とは区別されます。
損害の発生について、隣地使用者に過失がなくても支払う義務があります。

【条文の構造(権利と義務)】

第1項:隣地使用権の発生要件
権利を行使する者(土地所有者)が主張・立証すること
①以下のいずれかの目的であること
境界付近での工作物の設置・撤去・修繕
境界標の調査・測量
越境した枝の切取り
②その目的のために必要な範囲内での使用であること。
⇔隣地所有者が対抗(拒絶)できる場合
使用しようとする場所が住家であり、その居住者が承諾していないこと。

第2項・第3項:権利行使の方法(手続き的要件)
権利を行使する者が遵守すべき義務
損害が最も少ない日時、場所、方法を選ぶ義務(2項)。
あらかじめ、目的、日時、場所、方法を隣地の所有者及び使用者に通知する義務(3項)。

第4項:権利行使の効果
隣地所有者・使用者の権利
隣地の使用によって損害を受けた場合、償金を請求する権利。

【条文の典型事例】
登場人物
Aさん: 自宅の外壁を塗り替えたい土地所有者
Bさん: Aさんの隣人
Aさんは、Bさんとの境界線ぎりぎりに建てられた自宅の外壁を塗り替えることにしました。
しかし、作業用の足場を組むためには、どうしてもBさんの庭の一部を一時的に使わせてもらう必要があります。
【Aさんが取るべきステップ】
使用目的の確認:
外壁の修繕は、209条1項1号の「工作物の修繕」にあたります。→ OK
Bさんへの事前通知:
Aさんは、Bさんに対し、「外壁塗装のため、来週月曜から3日間、午前9時から午後5時まで、お庭のこの部分に足場を組ませてください」と、目的、日時、場所、方法をあらかじめ通知します(3項)。
方法の選択:
Aさんは、Bさんの家庭菜園を避け、Bさんの迷惑が最も少なくなる場所に足場を設置しなければなりません(2項)。
使用:
Bさんの承諾がなくても、Aさんは必要な範囲でBさんの庭を使用できます。
ただし、Bさんの家の中に入ることは、Bさんの承諾がなければできません(1項ただし書)。
償金の支払い:
もし足場の設置作業中に、誤ってBさんの庭に植えてあった高価な植木を枯らしてしまった場合、Aさんは過失の有無にかかわらず、その損害を償金として支払わなければなりません(4項)。

(公道に至るための他の土地の通行権)
第二百十条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

第二百十一条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

第二百十二条 第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。

第二百十三条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

公道に出られない土地(袋地:ふくろち)の所有者が、周りを囲む土地(囲繞地:いにょうち)を通って公道に出ることを認める権利と、そのルールを定めた条文です。

条文群の趣旨
土地の社会的・経済的な価値の維持と相隣関係の公平な調整にあります。
土地は、人が出入りし、利用できて初めて価値を持ちます。公道への出口がない「袋地」をそのまま放置すると、その土地は全く利用できなくなり、社会全体として大きな経済的損失となります。
そこで、法律は袋地の所有者の利益を保護するため、やむを得ない限度で、周囲の土地(囲繞地)の所有権に制約を加え、通行する権利を認めました。
ただし、それは囲繞地の所有者の犠牲の上に成り立つものですから、その通行場所や方法は損害が最も少なくなるように選び(211条)、原則として通行料(償金)を支払う義務を課す(212条)ことで、両者の利害の公平な調整を図っているのです。

【条文の典型事例(有料パターン)】
Aさんの土地は、昔からBさんの広大な土地に完全に囲まれていました。Aさんが公道に出るには、Bさんの土地を通る以外に方法がありません。
→ この場合、AさんはBさんに対し、囲繞地通行権を主張できます。ただし、通行ルートはBさんの家の庭を避けるなど、Bさんの損害が最も少ない場所を選び、毎年通行料として償金を支払う必要があります。

【条文の典型事例(無料パターン)】
もともと一つの大きな土地を持っていたXさんが、公道に面した前半部分をYさんに売り、奥の後半部分に自分の家を建てました。
その結果、Xさんの土地はYさんの土地を通らないと公道に出られない袋地になりました。
→ この場合、Xさんは、自分から袋地を作った原因者ですので、他の隣地(Zさんの土地など)を通ることはできず、Yさんの土地だけを通行できます。
その代わり、Yさんに対して償金を支払う必要はありません。
Yさんも土地を買う際に、Xさんが通行することを予測できたはずだからです。

(継続的給付を受けるための設備の設置権等)
第二百十三条の二 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。
5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

第二百十三条の三 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第五項の規定は、適用しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

「ライフライン(電気・ガス・水道)を引くために、やむを得ない場合に他人の土地や設備を使わせてもらう権利」です。

この条文の趣旨
土地の位置関係によっては、公道の下にある本管から自分の土地まで、他人の土地を経由しないと配管や配線ができない場合があります。
このような場合にライフラインの利用をあきらめなければならないとすると、その土地の価値が著しく害されてしまいます。
そこで、隣接する土地の所有者間の利害を調整し、社会生活に不可欠なインフラの利用を確保することで、土地の有効活用を図るのがこの条文の趣旨です。

覚えるべき法律用語
継続的給付
定義: 電気、ガス、水道水の供給など、一度きりではなく、継続的に供給される性質のサービスを指します。
条文には明記されていませんが、判例や学説ではインターネット回線などもこれに含まれると考えられています。

【条文の典型事例(有料パターン)】
登場人物
Aさん: 奥まった土地(甲土地)の所有者。新しく家を建てたい。
Bさん: Aさんの土地と公道の間に土地(乙土地)を所有している。
Aさんが甲土地に家を建てるため、公道の下を通っている水道本管から水道を引き込もうとしています。
しかし、甲土地は公道に接しておらず、水道管を引くには、必ずBさんの乙土地の下を通さなければなりません。
Aさんは、Bさんの土地(乙土地)に水道管を設置しなければ水道の供給を受けられないため、民法213条の2第1項に基づき、Bさんに対して乙土地に水道管を設置(埋設)させてほしいと請求できます。
その際、AさんはBさんに対し、工事の目的(水道管の設置)、場所(乙土地のどの部分を通るか)、方法(工事のやり方)を事前に通知しなければなりません(第3項)。
Bさんは、Aさんの計画が「庭のど真ん中を掘り返す」というものであれば、「家の脇の、利用頻度が低い土地の端を通してくれれば、こちらの損害が最も少ない」と代わりの場所・方法を主張することができます(第2項)。
工事が完了し、水道管が乙土地の下に埋設されたことで、将来Bさんが乙土地に建物を建てる際に基礎工事の制約を受けるなどの損害が生じる可能性があります。
Aさんはその損害に対して償金を支払わなければなりません(第5項)。
また、Aさんは工事のために乙土地に立ち入ることができます(第4項)。

【条文の典型事例(無料パターン)】
登場人物
Aさん: もともと公道に面した広い土地(X土地)を持っていた。
Bさん: Aさんから土地の一部を買った人。
Aさんは、X土地を公道に面した手前の「乙土地」と、奥の「甲土地」の2つに分割しました。
そして、Aさんは奥の**甲土地をBさんに売却(一部譲渡)**し、自分は乙土地に住み続けています。
Bさんが甲土地に家を建てるため電気を引こうとしましたが、電線は公道からAさんの乙土地の上空を通さないと引けないことが分かりました。
この状況は、まさに「土地の一部譲渡によって、他の土地(Aさんの乙土地)に設備(電柱・電線)を設置しなければ継続的給付(電気)を受けられない土地(Bさんの甲土地)が生じた」ケースです。
したがって、Bさんは民法213条の3に基づき、Aさんに対して、償金を支払うことなく、乙土地に電柱を建てて電線を通すことを請求できます。
この場合、Bさんは全く関係のない隣人Cさんの土地に電柱を建てさせてくれ、とは言えません。
あくまで原因を作ったAさんの土地にのみ設置を請求できます。

★本条で無償になるのは、あくまで**「設置」**に伴う土地の損害に対する償金(213条の2第5項)のみです。
例えば、Aさんの土地に既に水道管が通っており、Bさんがそれを使わせてもらう(使用する)場合、使用開始の損害に対する償金(同条第6項)や、維持費の分担(同条第7項)は免除されません。
条文が「第五項の規定は、適用しない」としか書いていないためです。

(自然水流に対する妨害の禁止)
第二百十四条 土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。

低い土地の所有者は、高い土地から自然に水が流れてくるのを、せき止めてはならないという条文です。

この条文の趣旨
水が高い所から低い所へ流れるのは自然の摂理です。
もし、低い土地の所有者が自分の都合で堤防を築くなどしてこの流れを妨害すると、高い土地に水が溜まってしまい、浸水などの被害が生じるおそれがあります。
そこで、この条文は、低い土地の所有者に対して、自然な水の流れをそのまま受け入れる義務(受忍義務)を課すことで、土地所有者間の無用な争いを防ぎ、自然の状態を維持することを目的としています。

【条文の典型事例】
登場人物
Aさん: 丘の上(高地)に住んでいる。
Bさん: Aさんの土地の下(低地)に住んでいる。
大雨が降ると、Aさんの土地の雨水は、自然の傾斜に沿ってBさんの土地の方へ流れていきます。
自分の庭が濡れるのを嫌がったBさんは、Aさんとの土地の境界線にコンクリートの壁を造りました。
Bさんが壁を造ったことで、雨水の行き場がなくなり、Aさんの土地がプールのような状態になってしまいました。
この場合、Bさんの行為は「自然に流れて来る水を妨げた」ことになるため、AさんはBさんに対し、民法214条に基づき壁の撤去を請求することができます。

(水流の障害の除去)
第二百十五条 水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞そくしたときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。

『天災』で水の流れが詰まった場合、高い土地の所有者は、『自腹で』復旧工事をすることができる。

この条文の趣旨
天災(自然現象)が原因で低い土地の側で水の流れが詰まってしまったケースでは、低い土地の所有者には何の落ち度もありません。
ですから、低地所有者に「復旧工事をしろ」と義務を課すのは酷です。
しかし、そのまま放置すると高い土地の所有者が水害に遭ってしまいます。
そこで、利害関係が最も大きい高地の所有者に、自らの費用で障害物を取り除く工事をする権利を与えることで、問題を迅速に解決できるようにしたのがこの条文の趣旨です。
一種の自力救済を認めた規定といえます。

【条文の典型事例】
登場人物
Aさん: 山の上(高地)に土地を持つ。
Bさん: 山の麓(低地)に土地を持つ。両者の間には小川が流れている。
大規模な台風による集中豪雨で土砂崩れが発生し、Bさんの土地のところで小川が土砂で完全に埋まってしまいました(閉塞)。
小川がせき止められた結果、水がAさんの土地の方へ逆流し、あふれ出しそうになっています。
この場合、Aさんは、工事費用を自分で負担することを条件に、Bさんの土地に入って、小川をふさいでいる土砂を取り除く工事をすることができます。
Bさんは、自分の土地であっても、Aさんが行うこの復旧工事を止めさせることはできません。

(水流に関する工作物の修繕等)
第二百十六条 他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。

「隣の土地のダムや用水路が壊れて被害が出そうな時、その土地の所有者に『直せ!』『詰まりを取れ!』『予防工事をしろ!』と請求できる権利」

この条文の趣旨
ため池、用水路、堤防といった水に関する人工的な工作物は、私たちの生活に役立つ一方、ひとたび管理を怠ると、決壊や詰まりによって周囲に甚大な被害を及ぼす危険性をはらんでいます。
そこでこの条文は、そうした危険な工作物が設置されている土地の所有者に対し、それを適切に維持・管理する義務を負わせています。
そして、その工作物の不備によって被害を受けそうになっている隣地の所有者に、危険を除去するための具体的な措置(修繕・障害除去・予防工事)を請求する権利を認めました。
これにより、人工工作物に起因する水害リスクを未然に防止・除去し、隣人同士の安全を守ることを目的としています。

覚えるべき法律用語
工作物(こうさくぶつ)
定義: 人の手によって土地に設置された施設全般を指します。
この条文では特に「貯水(水を貯める)、排水(水を流す)、引水(水を引く)」のためのものに限定されます。
具体例: ダム、ため池、堤防、用水路、排水溝、井戸など。

条文の構造(請求・義務)
請求できる人(請求権者)
工作物の不備によって、自分の土地に損害が及んでいる、または及びそうになっている土地の所有者。
請求原因(被害を受けそうな土地の所有者が立証)
他の土地に、貯水・排水・引水のための工作物が設置されていること。
その工作物が破壊(壊れている)または閉塞(詰まっている)していること。
その結果、自分の土地に損害が発生した、または発生するおそれがあること。
条文の効果(請求できる内容)
以下の3つのいずれか、または複数を請求できます。
修繕請求: 壊れた部分を元通りに直すよう求める。
障害除去請求: 詰まっているゴミや土砂を取り除くよう求める。
予防工事請求: 将来の損害を防ぐための補強工事などを求める(※「必要があるとき」という、より厳格な要件が付きます)。

【条文の典型事例】
登場人物
Aさん: 山の斜面に、農業用のため池(工作物)を持っている。
Bさん: その真下に家を建てて住んでいる。
最近、BさんがAさんのため池を見たところ、長年の劣化で堤防に大きな亀裂が入り(破壊)、水が少しずつ漏れ出していました。
Bさんは、このまま大雨でも降ったら堤防が決壊して、自分の家が土石流に巻き込まれてしまうかもしれないと恐怖を感じました(損害が及ぶおそれ)。
この場合、BさんはAさんに対し、民法216条に基づいて、まず「危険なので、ため池の堤防をすぐに修繕してください」と請求することができます。
さらに、専門家が見て決壊の危険性が非常に高いと判断されるなど「必要があるとき」には、単なる修繕にとどまらず、「堤防全体をコンクリートで補強するなどの予防工事をしてください」とまで請求することが可能です。

★土地工作物責任(民法717条)との関係
216条は危険の除去(現状回復・予防)
717条は発生した損害の填補(金銭賠償)
と、それぞれ役割が違うと整理しておきましょう。

(費用の負担についての慣習)
第二百十七条 前二条の場合において、費用の負担について別段の慣習があるときは、その慣習に従う。

この条文の趣旨
水路の管理や費用の分担といった問題は、その地域の歴史や地理的条件、住民間の関係性などと深く結びついています。
特に、農業地域などでは、古くから存在する水利組合や集落の取り決めといった、法律の条文とは異なる独自のルール(慣習)が存在することが少なくありません。
法律が全国一律のルールを押し付けると、かえって地域の実情に合わず、混乱を招くおそれがあります。
そこでこの条文は、当事者間の公平や地域社会の円滑な運営を尊重し、法律の原則よりも、現に機能している地域の慣習を優先させることを目的としています。

【条文の典型事例】
登場人物
Aさん: 農業を営む。自分の土地に用水路(工作物)を持っている。
Bさん: Aさんの下流で農業を営む。Aさんの用水路から水を得ている。
Cさん・Dさん: 同じ集落で、同じ用水路の恩恵を受けている農家仲間。
Aさんの土地にある用水路の壁が崩れてしまいました(工作物の破壊)。
法律の原則(第216条)に従えば、工作物の所有者であるAさんが、その修繕費用を全額負担するのが基本です。
BさんはAさんに対し、「216条に基づいて、あなたの費用で早く用水路を修繕してください」と請求しました。
しかし、AさんはBさんに対し、こう反論します。
「いや、待ってくれ。私たちの集落では、昔から**『用水路の維持管理は、その水を利用する農家全員で行い、費用も均等に分担する』という慣習**があるじゃないか。」
このAさんの主張が認められれば(=そのような慣習が存在すると証明されれば)、第217条の適用により、修繕費用はAさん一人が負担するのではなく、A・B・C・Dさんといった水を利用する組合員全員で分担することになります。

(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
第二百十八条 土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。

自分の家の屋根の雨水が、直接お隣さんの土地に流れ込むような『雨どい』などを設置してはいけない。

覚えるべき法律用語
直接に雨水を隣地に注ぐ構造
雨水を集めて、その流れる先を積極的に隣地に向ける構造になっていることを意味します。
単に屋根の端から雨水が自然にポタポタと滴り落ちるようなケースは、原則として「直接に注ぐ」には当たりません。
雨どいやパイプのように、水を一方向に導くような設備が典型例です。

(水流の変更)
第二百十九条 溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。
2 両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路及び幅員を変更することができる。ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。
3 前二項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

用水路や小川など、複数の土地にまたがる水の流れを、一人の土地所有者が自分勝手に変更してしまい、他の所有者に迷惑がかかるのを防ぐためのルールです。
水路の対岸が他人の土地なら水路変更はNG。
両岸が自分の土地なら変更OKだが、隣地に流すときは元の流れに戻さなければならない(ただし地域の慣習が最優先)。

この条文の趣旨
第1項の趣旨(対岸が他人の土地の場合):
水路の所有者が自由に水路のコースや幅を変えると、対岸の土地が削られたり(浸食)、水の流れが変わり土地が使いにくくなったりする直接的な被害が及びます。
これを防ぐため、対岸の土地所有者の権利を守ることを目的としています。

第2項の趣旨(両岸が自分の土地の場合):
両岸とも自分の土地であれば、その範囲内では自由に土地を利用できるのが原則です。
そのため、水路の変更は自由とされています。
しかし、その自由も無限ではありません。下流の土地所有者は、これまで通りの場所から水が流れてくることを期待しています。
その下流の土地所有者の期待を保護するため、隣地との境界点では元の流れに戻す義務を課しています。

第3項の趣旨:
水の利用方法は地域性が非常に強く、古くからのコミュニティルール(慣習)が法律以上に実情に合っていることが多々あります。
そのため、法律の原則よりも地域の実情に合った慣習を優先させています。

覚えるべき法律用語
水流地(すいりゅうち):
溝(みぞ)、堀(ほり)、小川など、水が流れている土地(川底など)を指します。
対岸(たいがん):
水の流れを挟んだ向こう側の岸のことです。
幅員(ふくいん):
水路の横幅のことです。

【条文の典型事例】
登場人物
Aさん: 山側(上流)の土地所有者。
Bさん: 真ん中の広い土地の所有者。
Cさん: 下流側の土地所有者。
1本の小川がA→B→Cの土地を順に流れています。

具体例1(第1項のケース)
小川が、Aさんの土地とBさんの土地の境界になっています。
川底はBさんの所有ですが、対岸はAさんの土地です。
この場合、Bさんが自分の土地側の岸を削って川幅を広げようとすると、水の流れが変わりAさんの岸が浸食されるおそれがあります。
したがって、Bさんは勝手に川幅を変更することはできません。

具体例2(第2項のケース)
小川は、Bさんの広大な土地のど真ん中を流れています(両岸ともBさんの土地)。
Bさんは、庭をリフォームし、敷地内で小川を蛇行させて、池に一度水を引き込むことにしました。
これは自由にできます。
しかし、Bさんの土地からCさんの土地へ小川が流れ出す境界地点では、必ず元の位置・元の流れに戻してからCさんの土地へ流さなければなりません。
勝手に流れを変えて、Cさんの土地の想定外の場所から水が入るようにしてはいけません。

(排水のための低地の通水)
第二百二十条 高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
(通水用工作物の使用)
第二百二十一条 土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
2 前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
(堰せきの設置及び使用)
第二百二十二条 水流地の所有者は、堰せきを設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
2 対岸の土地の所有者は、水流地の一部がその所有に属するときは、前項の堰を使用することができる。
3 前条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
(境界標の設置)
第二百二十三条 土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
(境界標の設置及び保存の費用)
第二百二十四条 境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
(囲障の設置)
第二百二十五条 二棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。
2 当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ二メートルのものでなければならない。
(囲障の設置及び保存の費用)
第二百二十六条 前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
(相隣者の一人による囲障の設置)
第二百二十七条 相隣者の一人は、第二百二十五条第二項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。
(囲障の設置等に関する慣習)
第二百二十八条 前三条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
(境界標等の共有の推定)
第二百二十九条 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。
第二百三十条 一棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については、前条の規定は、適用しない。
2 高さの異なる二棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが、低い建物の高さを超えるときは、その障壁のうち低い建物を超える部分についても、前項と同様とする。ただし、防火障壁については、この限りでない。
(共有の障壁の高さを増す工事)
第二百三十一条 相隣者の一人は、共有の障壁の高さを増すことができる。ただし、その障壁がその工事に耐えないときは、自己の費用で、必要な工作を加え、又はその障壁を改築しなければならない。
2 前項の規定により障壁の高さを増したときは、その高さを増した部分は、その工事をした者の単独の所有に属する。
第二百三十二条 前条の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

越境してきた『枝』は、まず『切って』とお願いし、相手が応じない等の場合に自分で切れる。
越境してきた『根』は、いつでも自分で切ってOK。

この条文の趣旨
隣の土地から木の枝が伸びてきて日当たりが悪くなったり、根が伸びてきて自宅の基礎や水道管を傷つけたりと、植物に関する隣人トラブルは後を絶ちません。
より実用的で迅速な解決ができるように、一定の条件のもとで、迷惑を受けている側の土地所有者が自ら枝を切り取れる権利を明確に認めたのです。

覚えるべき法律用語
相当の期間(そうとうのきかん):
状況に応じて「常識的に考えて妥当な期間」のことです。
木の大きさや切断の難易度にもよりますが、一般的には2週間〜1ヶ月程度が一つの目安とされます。
急迫の事情(きゅうはくのじじょう):
台風で枝が折れかかり、今にも自分の家に落ちてきそうな場合など、緊急性が高く、悠長にお願いしている時間がない状況を指します。

条文の構造(権利と手続き)
【枝(えだ)の越境について(1項〜3項)】
ステップ1:原則(第1項)
隣地の枝が境界線を越えてきた場合、まずはその木の所有者に対して**「枝を切除してください」と請求**します。
あくまでお願いするのがスタートであり、いきなり自分で切り取ることはできません。
ステップ2:例外(第3項)
以下の3つのケースに限り、迷惑を受けている土地の所有者が、自分でその枝を切り取ることができます。
催告しても切らない: 木の所有者に「切ってください」とお願いしたのに、相当の期間内に切ってくれないとき。
所有者不明: 木の所有者が誰だか分からない、またはどこにいるか不明なとき。(例:隣が長年の空き家)
急迫の事情: 台風で枝が折れそうなど、緊急の必要があるとき。

【根(ね)の越境について(第4項)】
根についてはルールは非常にシンプルです。
隣地の根が境界線を越えてきた場合、迷惑を受けている土地の所有者は、いつでも、お願いすることなく、自分の判断でその根を切り取ることができます。

(境界線付近の建築の制限)
第二百三十四条 建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。
2 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

建物を建てる時は、お隣との境界線から50cm以上離さなければならない。

この条文の趣旨
日照・通風の確保、プライバシーの保護、防災、建物の維持管理

条文の構造(義務と対抗策)
【第1項:基本ルール】
義務: 建物を建てる人は、境界線から50cm以上の距離を保つ義務があります。
【第2項:違反された場合の対抗策】
原則(建築中):
隣地の所有者は、違反している建築者に対し、その建築の中止や、距離を保つように計画の変更を請求することができます。
例外(建築中止・変更請求権がなくなる場合):
この中止・変更請求権には時間制限があります。
以下のいずれかに該当すると、この権利は消滅します。
建築が始まってから1年が経過したとき
建物が完成してしまったとき
この時間制限を過ぎてしまった場合、隣地の所有者は建物の撤去や変更を求めることはできず、損害賠償の請求しかできなくなります。

第二百三十五条 境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
2 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。

境界線から1m未満の距離に、お隣の家の中が見える窓やベランダを造るなら、目隠しを付けなければならない。

この条文の趣旨
プライバシーの保護
隣の家の窓やベランダから、自分の家のリビングや庭が丸見えだったら、落ち着いて生活できません。
かといって、隣人に「窓を造るな」と要求するのも行き過ぎです。
そこで、お互いのプライバシーを尊重するため、境界線から近い距離(1m未満)に他人の宅地を見通せる窓などを設置する側に、視線を遮るための「目隠し」を設置する義務を課したのです。

覚えるべき法律用語
目隠し:
ルーバー(羽板と呼ばれる細長い板を、一定のすき間を空けて縦又は横に並べたもの)、
すりガラス、格子、衝立(ついたて)など、視線を遮るものであれば形式は問われません。

(境界線付近の建築に関する慣習)
第二百三十六条 前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

(境界線付近の掘削の制限)
第二百三十七条 井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から二メートル以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から一メートル以上の距離を保たなければならない。
2 導水管を埋め、又は溝若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの二分の一以上の距離を保たなければならない。ただし、一メートルを超えることを要しない。

(境界線付近の掘削に関する注意義務)
第二百三十八条 境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。

第二節 所有権の取得(239条~248条)

(無主物の帰属)
第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

(遺失物の拾得)
第二百四十条 遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

(埋蔵物の発見)
第二百四十一条 埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。

(不動産の付合)
第二百四十二条 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。

土地や建物に、他人の物(動産)が強力にくっついて一体化した場合、原則として土地・建物の所有者が、くっついた物の所有権も取得する。

この条文の趣旨
物の利用価値を維持し、法律関係をシンプルにすることで、社会経済の安定を図る
例えば、誰かが無断で他人の土地に木を植えたとします。
木がしっかりと根付いてしまうと、土地から分離して掘り起こすのは大変ですし、木の価値も損なわれてしまいます。
このように、分離することが社会経済上不利益となる場合には、別々の所有権を認めるより、不動産(土地)の所有者にまとめて所有権を認めた方が合理的です。
ただし、例外として、賃貸マンションの住人がエアコンを取り付けた場合のように、正当な権利に基づいて物を取り付けた人の所有権は保護されます。
これを無視すると、借主が安心して部屋の設備を整えられなくなってしまうからです。

覚えるべき法律用語
付合(ふごう)
定義: ある物(通常は動産)が、不動産(土地や建物)と物理的・経済的に分離できないほど強く結合してしまうことです。
「分離するのが不可能」または「分離するのに過大な費用がかかる」状態を指します。

権原(けんげん)
定義: ある行為を正当化する法律上の原因や権利のことです。
この条文の文脈では、他人の不動産に自分の物を取り付けることを正当化する権利を指します。
具体例: 賃借権(部屋を借りる権利)、地上権(建物を建てるために土地を借りる権利)など。

原則の例(所有権が移るケース)
Aさんの所有する更地に、隣人のBさんが無断で高価な庭石を運び込み、セメントで固めて日本庭園を造ってしまいました。
庭石は土地と一体化し、壊さずに分離することは困難です(付合)。
結論:
土地の所有者であるAさんが、庭石の所有権を取得します。
Bさんは庭石の所有権を失いますが、Aさんに対して庭石の価格相当額の補償(不当利得返還)を請求できます。

例外の例(所有権が移らないケース)
Aさん所有のマンションの一室を、Bさんが**賃貸借契約(権原)**に基づいて借りています。
Bさんは、自分で購入した最新式のエアコンを、業者に頼んで壁に設置しました。
結論:
Bさんには**「権原」**があるので、エアコンの所有権はBさんにあります。
Aさんのものにはなりません。
Bさんは退去時にエアコンを取り外して持っていくことができます(ただし、壁の穴を修復する原状回復義務は負います)。

★「建物」は土地に付合しません。
たとえ権原なく他人の土地に建物を建てたとしても、建物は土地とは別の独立した不動産として扱われ、建築した人の所有物となります。

(動産の付合)
第二百四十三条 
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。

動産の付合:主従の区別がある場合
主たる動産の所有者が単独所有
「所有者が違う動産同士がくっついて、壊さないと分けられなくなった場合、メインの動産の持ち主が、くっついた物全体の所有者になる」**というルール
単独所有となった場合、所有権を失った者は償金請求権を取得する(248条)。

条文の趣旨
くっついて一体となった物を、無理に壊したり、高すぎる費用をかけて分離させたりするのは、社会経済的に無駄ですよね。
そこで、法律関係をシンプルにするため、どちらか一人の所有物としてしまった方が合理的であるという考え方(法律関係の簡明化)に基づいています。

覚えるべき法律用語
付合(ふごう):
所有者が異なる複数の物が結合して、物理的にも経済的にも一体の物とみなされる状態になること。
損傷しなければ分離することができない:
物理的に分離が不可能な状態。
分離するのに過分の費用を要する:
物理的には分離できるけれど、その費用が物の価値に見合わないほど高額になってしまう状態。
主たる動産:
くっついた動産の中で、価格や機能の面で中心的な役割を果たす方の動産。

【条文の典型事例】
Aさん:高価な金のネックレスチェーン(主たる動産)を持っている。
Bさん:美しい宝石のペンダントトップ(従たる動産)を持っている。
BさんがAさんのチェーンにペンダントトップを取り付けた後、留め具が完全に固着してしまい、宝石を傷つけずに取り外すことができなくなってしまいました。
この場合、主たる動産である金のチェーンの所有者Aさんが、ペンダントトップが付いたネックレス全体の所有権を取得します。
その代わり、AさんはBさんに対して、ペンダントトップの価格に相当する償金を支払う義務を負います。

第二百四十四条 
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。

動産の付合:主従の区別がない場合
価格の割合で共有
「くっついた動産にメインもサブもない場合、元の持ち主たちが、それぞれの物の価値の割合に応じて、できた物全体を共有する」**というルール
243条の補充的な規定

条文の趣旨
主従の区別ができないのに、一方の所有者に全ての所有権を認めるのは不公平です。
そこで、各所有者の元の価値を尊重し、公平を期すために共有という形をとります。

【条文の典型事例】
Aさん:1万円分の高級ワイン(甲)を持っている。
Bさん:同じく1万円分の別の高級ワイン(乙)を持っている。
パーティーの準備中、誤ってAさんのワインとBさんのワインが大きなデキャンタの中で混ざってしまいました。
もはや分離することは不可能ですし、どちらのワインが主でどちらが従とはいえません。
この場合、混ざり合ったワインの所有権はAさんとBさんの共有となります。
価格が同じだったので、共有持分はA:1/2、B:1/2となります。
もしAさんのワインが2万円、Bさんのワインが1万円だったら、持分はA:2/3、B:1/3となります。

(混和)
第二百四十五条 前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。

「お米やお酒、ガソリンのように、異なる所有者の物が混ざり合って見分けがつかなくなった場合、前に解説した『動産の付合』(243条・244条)のルールを使って所有者を決める」**という条文です。

覚えるべき法律用語
混和(こんわ):
所有者の異なる動産(特に、米・麦などの穀物、石油・酒などの液体)が混じり合い、**元の物を識別できなくなる(見分けがつかなくなる)**こと。
物理的にくっつく「付合」と区別されます。

【条文の典型事例】
Cさんは財布に自分の1万円札を1枚持っていました。
友人Dさんから「これ預かってて」と1万円札を1枚渡され、自分の財布に入れました。
この瞬間、財布の中の2万円はCさんとDさんの共有となります(持分は1/2ずつ)。
CさんはDさんに対して「2万円の中から1万円を返す義務」を負いますが、「預かったその特定の1万円札」を返す義務はありません。

(加工)
第二百四十六条 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
2 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。

他人の材料を使って新しい物を作った場合、原則として材料の持ち主が所有者になるが、加工によって価値がものすごく上がった場合は、作った人(加工者)が所有者になる、というルール

条文の趣旨
材料の所有者の権利を保護しつつも、優れた技術や労力によって新たな価値が生み出された場合には、その労働の成果(付加価値)を尊重しようという、材料の価値と労働の価値とのバランスを取るための規定です。

覚えるべき法律用語
加工 (かこう):
他人の動産に工作を加え、新たな物を作り出すこと。
単なる修理や手直しではなく、材料とは別の新しい物(例:木材→机、布→服)が生まれることがポイントです。
工作によって生じた価格:
加工者の労働や技術によって増加した物の価値。
材料費を引いた市場価格の上昇分と考えると分かりやすいです。

【条文の典型事例】
例1:第1項(他人の材料のみ)
Aさんが持っている1万円の布(材料)を、Bさんが加工してシンプルな洋服(市場価値3万円)を作りました。
材料価格:1万円
工作で生じた価格:2万円
2万円は1万円を「著しく超える」とまでは言えないため、原則通り、洋服の所有権は材料所有者のAさんに帰属します。
AさんはBさんに償金として2万円を支払う必要があります。

例1’:第1項の例外
Aさんが持っている1万円のただの木の塊を、高名な彫刻家Bさんが加工して、芸術的な彫刻(市場価値100万円)を彫り上げました。
材料価格:1万円
工作で生じた価格:99万円
99万円は1万円を**「著しく超える」**と言えます。
例外が適用され、彫刻の所有権は加工者のBさんに帰属します。
BさんはAさんに償金として材料代の1万円を支払う必要があります。

例2:第2項(加工者が自分の材料も使用)
Aさん所有の50万円のダイヤモンドを、宝石職人のBさんが、Bさん自身が用意した10万円のプラチナの指輪の土台に埋め込み、デザイン加工(工作価値20万円)をして婚約指輪を完成させました。
Aさんの材料価格:50万円
Bさんの貢献価値合計:(Bの材料10万円 + 工作価値20万円)= 30万円
Bさんの貢献価値(30万円)は、Aさんの材料価格(50万円)を超えていません。
よって、Bさんは所有権を取得できません。
指輪の所有権は主たる材料の所有者であるAさんに帰属します。
AさんはBさんに償金として30万円を支払う必要があります。
*(自分が提供した材料の価格 + 工作によって生じた価格) > (他人の材料の価格)であること。
上記の不等式が成り立つ場合に限り、加工者が加工物の所有権を取得します。

(付合、混和又は加工の効果)
第二百四十七条 第二百四十二条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。
2 前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。

「材料に質権などの権利が設定されていた場合、その材料が付合・混和・加工されても権利は無くならず、完成した新しい物や、元の持ち主の共有持分の上に存続する」**という、第三者を保護するためのルールです。

条文の趣旨
担保権者などの第三者の権利を保護し、取引の安全を図るため
元の物の価値が形を変えて存続している以上、その価値の上に設定された権利も存続させるのが公平である、という考え方に基づきます。

覚えるべき法律用語
他の権利:
ここで想定されているのは、主に**質権(しちけん)**です。
他にも、動産に設定できる留置権や先取特権などが含まれます。
所有権以外の、その物を目的とする権利全般を指します。

(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
第二百四十八条 第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。

第三節 共有(249条~264条)

(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
2 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
3 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。

(共有持分の割合の推定)
第二百五十条 各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
(共有物の管理)
第二百五十二条 
共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
2 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
3 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
4 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
三 建物の賃借権等 三年
四 動産の賃借権等 六箇月
5 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
(共有物の管理者)
第二百五十二条の二 
共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

(共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。

(共有物についての債権)
第二百五十四条 共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。

覚えるべき法律用語
共有物について他の共有者に対して有する債権:
共有物そのものから発生した債権のことです。
典型例は、他の共有者のために立て替えた管理費、修繕費、固定資産税などです。
共有者間の個人的な貸し借りなどは含まれません。

条文の趣旨
マンションの管理費や修繕費のように、共有関係からは継続的に費用負担が発生します。
もし、ある共有者が自分の負担分を支払わないまま持分を第三者に売却し、他の共有者がその第三者に請求できないとすると、立て替え払いをした共有者が泣き寝入りすることになりかねません。
このような事態は不公平ですし、共有関係の安定を害します。
そこで、共有物に関する債権を、その共有持分権と一体化させ、持分を取得した新しい所有者に引き継がせることで、債権を保全し共有者間の公平を図ることを目的としています。

(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

★特別縁故者(958条の2)が優先
共有仲間が身寄りなく亡くなった場合、その人の持分は、すぐには他の共有仲間のものにはなりません。
生前お世話をした**「特別縁故者」が、先にもらえる可能性がある**、という判例

(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
第二百五十七条 前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。

(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

第二百五十八条の二 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

(共有に関する債権の弁済)
第二百五十九条 共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。
2 債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。
(共有物の分割への参加)
第二百六十条 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
(分割における共有者の担保責任)
第二百六十一条 各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。

(共有物に関する証書)
第二百六十二条 分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
2 共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
3 前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。
4 証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。

(所在等不明共有者の持分の取得)
第二百六十二条の二 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按あん分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。
4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(所在等不明共有者の持分の譲渡)
第二百六十二条の三 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
3 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
4 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

(共有の性質を有する入会権)
第二百六十三条 共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。

(準共有)
第二百六十四条 この節(第二百六十二条の二及び第二百六十二条の三を除く。)の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令(第二百六十四条の二―第二百六十四条の八)

(所有者不明土地管理命令)
第二百六十四条の二 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
2 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
3 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
4 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。

(所有者不明土地管理人の権限)
第二百六十四条の三 前条第四項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
2 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
(所有者不明土地等に関する訴えの取扱い)
第二百六十四条の四 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
(所有者不明土地管理人の義務)
第二百六十四条の五 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
2 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(所有者不明土地管理人の解任及び辞任)
第二百六十四条の六 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。
2 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(所有者不明土地管理人の報酬等)
第二百六十四条の七 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。
(所有者不明建物管理命令)
第二百六十四条の八 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第四項に規定する所有者不明建物管理人をいう。以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。
2 所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
3 所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発せられた後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
4 裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。
5 第二百六十四条の三から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令及び所有者不明建物管理人について準用する。

第五節 管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令(第二百六十四条の九―第二百六十四条の十四)

(管理不全土地管理命令)
第二百六十四条の九 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(第三項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。
2 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。

(管理不全土地管理人の権限)
第二百六十四条の十 管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
2 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
3 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可をするには、その所有者の同意がなければならない。
(管理不全土地管理人の義務)
第二百六十四条の十一 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
2 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(管理不全土地管理人の解任及び辞任)
第二百六十四条の十二 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
2 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(管理不全土地管理人の報酬等)
第二百六十四条の十三 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。
(管理不全建物管理命令)
第二百六十四条の十四 裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(第三項に規定する管理不全建物管理人をいう。第四項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。
2 管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。
4 第二百六十四条の十から前条までの規定は、管理不全建物管理命令及び管理不全建物管理人について準用する。