司法書士試験では、民法は〇✕の選択肢での出題しかされないので、そのすべてを学習する必要はない。
①条文を読んで、そのイメージや理由がわかるように。
②条文の論点も把握すること。
この2点につきる。
民法(全5編1050条)の条文目次
#### **第1編 総則**
* **第1章** 通則
* **第2章** 人
* 第1節 権利能力
* 第2節 意思能力
* 第3節 行為能力
* 第4節 住所
* 第5節 不在者の財産の管理及び失踪の宣告
* **第3章** 法人
* **第4章** 物
* **第5章** 法律行為
* 第1節 総則
* 第2節 意思表示
* 第3節 代理
* 第4節 無効及び取消し
* 第5節 条件及び期限
* **第6章** 期間の計算
* **第7章** 時効
* 第1節 総則
* 第2節 取得時効
* 第3節 消滅時効
#### **第2編 物権**
* **第1章** 総則
* **第2章** 占有権
* 第1節 占有権の取得
* 第2節 占有権の効力
* 第3節 占有権の消滅
* 第4節 準占有
* **第3章** 所有権
* 第1節 所有権の限界
* 第2節 所有権の取得
* 第3節 共有
* **第4章** 地上権
* **第5章** 永小作権
* **第6章** 地役権
* **第7章** 留置権
* **第8章** 先取特権
* 第1節 総則
* 第2節 先取特権の種類
* 第3節 先取特権の効力
* **第9章** 質権
* 第1節 総則
* 第2節 動産質
* 第3節 不動産質
* 第4節 権利質
* **第10章** 抵当権
* 第1節 総則
* 第2節 抵当権の効力
* 第3節 抵当権の消滅
* 第4節 根抵当
#### **第3編 債権**
* **第1章** 総則
* 第1節 債権の目的
* 第2節 債権の効力
* 第3節 多数当事者の債権及び債務
* 第4節 債権の譲渡
* 第5節 債権の消滅
* **第2章** 契約
* 第1節 総則
* 第2節 贈与
* 第3節 売買
* 第4節 交換
* 第5節 消費貸借
* 第6節 使用貸借
* 第7節 賃貸借
* 第8節 雇用
* 第9節 請負
* 第10節 委任
* 第11節 寄託
* 第12節 組合
* 第13節 終身定期金
* 第14節 和解
* **第3章** 事務管理
* **第4章** 不当利得
* **第5章** 不法行為
#### **第4編 親族**
* **第1章** 総則
* **第2章** 婚姻
* 第1節 婚姻の成立
* 第2節 婚姻の効力
* 第3節 夫婦財産制
* 第4節 離婚
* **第3章** 親子
* 第1節 実子
* 第2節 養子
* **第4章** 親権
* 第1節 総則
* 第2節 親権の効力
* 第3節 親権の喪失
* **第5章** 後見
* 第1節 後見の開始
* 第2節 後見の機関
* 第3節 後見の事務
* 第4節 後見の終了
* **第6章** 保佐及び補助
* 第1節 保佐
* 第2節 補助
* **第7章** 扶養
#### **第5編 相続**
* **第1章** 総則
* **第2章** 相続人
* **第3章** 相続の効力
* 第1節 総則
* 第2節 相続分
* 第3節 遺産の分割
* **第4章** 相続の承認及び放棄
* 第1節 総則
* 第2節 相続の承認
* 第3節 相続の放棄
* **第5章** 財産分離
* **第6章** 相続人の不存在
* **第7章** 遺言
* 第1節 総則
* 第2節 遺言の方式
* 第3節 遺言の効力
* 第4節 遺言の執行
* 第5節 遺言の撤回
* **第8章** 配偶者の居住の権利
* 第1節 配偶者居住権
* 第2節 配偶者短期居住権
* **第9章** 遺留分
* **第10章** 特別の寄与
民法>総則>法律行為のまとめ
法律行為の詳細
* 第1節 総則
* 第2節 意思表示
* 第3節 代理
* 第4節 無効及び取消し
* 第5節 条件及び期限
民法>総則>法律行為>代理まとめ(99条~)
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
◎条文構造
第1項:
代理人が相手方へ意思表示をする場合(能動代理)
権限の範囲内で(権限内)
本人のためにすることを示して(顕名)
代理人が言ったことは、本人が言ったのと同じにする効果
第2項:
相手方が代理人へ意思表示をする場合(受働代理)
代理人が聞いたことは、本人が聞いたのと同じにする効果
★本来であれば「Aの代理人Bです」と顕名すべきところ、直接「Aです」と表示した場合、顕名したといえるか?
➡いえる。いわば「なりすまし」だが、そもそも顕名は効果帰属先を明らかにする意味しかないため。
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。
ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。
◎条文構造
本文(原則):
顕名をしなかったら、代理人自身の行為とみなす。
ただし書き(例外):
相手方が代理だと知っていた(または知れた)なら、有効な代理行為として扱う。
代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。
◎条文構造
1項・2項(大原則):
契約に問題があったかどうかは、現場で行動した「代理人」を基準に判断する。
1項(能動代理): 代理人が相手方に話す・申し込む場合。
2項(受働代理): 代理人が相手方から聞く・受け取る場合。
3項(例外):
本人が具体的に指示した場合など、例外的に「本人」を基準に判断する。
代理人を理由に本人は保護されない。
例外の要件
①**「特定の法律行為」**を委託されたこと(例:「あの〇〇社の株を買いなさい」というピンポイントの指示)
②代理人が本人の指示通りに行為をしたこと
【1項の例:詐欺にあってない本人、詐欺にあった代理人】
本人は詐欺にあってないが、代理人が詐欺にあった場合、代理人を理由に本人は契約の取り消しができる。
本人Aさんが、代理人Bさんに「価値のある骨董品を買ってきて」と頼みました。
Bさんは、相手方Cさんにだまされて、ニセモノの壺を本物だと信じて買ってしまいました。
この場合、だまされたのは代理人Bさんです。
本人Aさんはだまされていません。
しかし、代理人Bさんを基準に判断するため、Aさんはこの契約を詐欺を理由に取り消すことができます。
【2項の例:善意の本人、悪意の代理人】
本人は聞いてないが、代理人は契約の事情を聞いている場合、代理人を理由に本人は契約の錯誤取り消しはできない。そんな代理人を選んだ本人が悪い。
本人Aさんが、代理人Bさんに「家を売ってきて」と頼みました。
買い手のCさんがBさんに対し、「あの家には雨漏りがありますよね?」と伝え、Bさんは「はい、知っています」と答えました。
Bさんはこの事実をAさんには報告しませんでした。
この場合、雨漏りの事実を知っていた(悪意だった)のは代理人Bさんです。
この事実は、本人Aさんに直接伝えられたことと同じ扱いになります。
したがって、Aさんは後から「私は雨漏りを知らなかった(善意だった)」と主張して、契約不適合責任を免れることはできません。
【3項の例:悪意の本人、善意の代理人】
自分の悪意を、事情を知らない善意の代理人で隠すのはダメ!
本人Aさんは、隣の土地に重大な欠陥があることを知っていました(悪意)。
Aさんはそのことを、何も知らない代理人Bさんに隠したまま、「隣の〇番の土地を、言い値で買ってきなさい」と具体的な指示をしました。
Bさんは指示通りにその土地を買いました。
後で欠陥が発覚しても、本人Aさんは「代理人のBさんは欠陥を知らなかった(善意だった)のだから、売主の責任を追及できるはずだ」と主張することはできません。
制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。
ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。
◎条文構造
本文:代理人が制限行為能力者だった場合
原則「代理人はロボットでOK」代理人に完全な行為能力は必要ないという大原則
なぜなら、代理人が行った契約の効果(利益も不利益も)は、すべて本人に直接帰属するからです(99条)。
代理人自身が損をすることはないので、制限行為能力制度は使われない。
ただし書き:代理人が制限行為能力者だった場合、かつ、本人も制限行為能力者であった場合
例外「二重の保護が必要な場合」非常に特殊なケースの例外。
制限行為能力制度で本人を保護
本文具体例
本人Aさんが、17歳の息子B君(未成年者=制限行為能力者)に「おつかいで、お米を買ってきて」と頼んだとします。
B君は、代理人としてスーパーでお米を買いました。
この場合、本人Aさんは後から「息子は未成年者だから、このお米の売買契約は取り消します」と主張することはできません。
ただし書きの具体例
本人15歳の息子A君(未成年者=制限行為能力者)の財産を、
法定代理人かつ成年被後見人(制限行為能力者)である父親Bさんが、Cさんに売ってしまいました。
例外である「ただし書き」が適用され、この売買契約は後から取り消すことができます。
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
そもそも復代理人とは、「代理人の代理人」ではなく、あくまでも本人の代理人をさす。
つまり、「代理人がその権限と責任において選任した本人の代理人」のことを指す。
例:会社
本人=会社
代理人=営業部の部長:営業部の仕事全体を任せられた人
復代理人=営業部の課長:「A社との契約を結んできてくれ」と具体的な仕事
⇒復代理人が選ばれても、代理人は権限を失わない
⇒復代理人の権限は、代理人から与えられた範囲、代理人の代理権を超えることもできない(106 I、超えた場合には権代理)
⇒代理人の代理権が消滅すると、復代理権も消滅する(例外あり:登記申請代理権や訴訟代理権は、本人の死亡によっても消滅しないのと同様に、原登記申請代理人や原訴訟代理人が死亡しても、復登記申請代理人や復訴訟代理人の代理権は消滅しない。)
⇒復代理人は代理行為をするにあたって、本人のためにすることを示せばよく、自己を選任した代理人の名を示すことは不要
◎条文構造
任意代理が**「本人と代理人の個人的な信頼関係」**に基づいているため、
原則: 復代理人(代理人の代理人)の選任は禁止。
例外: 「本人の許諾」または「やむを得ない事由」がある場合は、選任が許可される。
具体例:やむを得ない事由があるとき
本人Aさんから海外での重要な契約を任された代理人Bさんが、現地で急病になり入院してしまった。契約締結の期日は明日であり、今からAさんの許諾を得る時間もない。このような緊急事態では、BさんはAさんの利益を守るため、信頼できる同僚Cさんを復代理人に選任して契約をさせることができます。
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
◎条文構造
前段(原則):
法定代理人は、本人の許諾や特別な理由がなくても、いつでも自由に復代理人を選べる。ただし、「自己の責任」という無過失責任(選んだ復代理人が本人に損害を与えた場合、その責任はすべて法定代理人が負う。)
かかる理由は、法定代理人は、本人の個人的な信頼に基づいて選ばれたわけではなく、その職務は広範囲かつ長期間に及ぶため、必要に応じていつでもサポート役(復代理人)を使えるようにしておかないと、本人を十分に保護するという重要な役割を果たせなくなるから。
後段(例外):
やむを得ない事由がある場合は、責任が軽くなり、「その人を選んだこと(選任)」と「その人の仕事ぶりをきちんと監督しなかったこと(監督)」に過失(落ち度)があった場合**にのみ責任を負う(過失責任)。
例:やむを得ない事由があるとき
法定代理人自身が急病で入院してしまい、本人の財産管理を急遽誰かに任せざるを得なくなった、といった緊急事態の場合は、無過失責任が過失責任へ軽くなる。
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
◎条文構造
要件
Ⅰ代理人が本人のためではなく自己又は第三者の利益のためであること
Ⅱ代理人の行為が、あくまで代理権の範囲内の行為であること
Ⅲ相手方が知っていた(悪意)あるいは知ることができた(有過失)
効果
その行為は無権代理とみなす
例1:大谷翔平と水原一平
本人: 大谷翔平さん
代理人: 水原一平さん(大谷さんの口座管理などを任されていた=一定の代理権があったと仮定)
相手方: 違法なブックメーカー(胴元)
水原氏は、大谷さんの口座にアクセスし、送金する権限を持っていました。その送金の目的は、大谷さんのためではなく、自分自身のギャンブルの借金を返済するためでした。(Ⅰの要件を満たす)。
しかし、水原氏が大谷さんの口座にアクセスするために大谷さんになりすまし、銀行に対して虚偽の説明をしていたという事実。これは銀行をだます**「銀行詐欺罪」**にあたります。これはもはや権限の「濫用(使いすぎ)」ではなく、権限のない部分にまで手を出した**「無権代理」や、それ以上の「不法行為・犯罪行為」**そのものです。Ⅱの要件を満たさない。
また、そもそも「代理権の濫用」のルールによって保護される民法107条の相手方は、何も知らずに取引をした人に限られる。ブックメーカーという違法な存在は保護に値しない。
例2
本人Aさん: 会社の社長。
代理人Bさん: Aさんの会社の経理部長。Aさんから会社の運転資金として「銀行から500万円を借りてくる権限」を与えられている。しかし、Bさん個人には多額のギャンブルの借金がある。
相手方Cさん: Bさんにお金を貸す銀行。
経理部長Bさんは、社長Aさんから与えられた代理権に基づき、会社の正式な書類を使って銀行Cから500万円を借りました。契約書の名義は、もちろん「Aさんの会社」です。
しかし、Bさんの真の目的は、その借りた500万円を会社の運転資金に使うことではなく、**自分のギャンブルの借金返済に使うこと(着服・横領)**でした。
では、この借金500万円を返す義務は、本人Aさんの会社にあるのでしょうか?
結論
銀行Cが、Bさんの濫用目的を「知っていた(悪意)」、または**「知ることができたはず(有過失)」**の場合、契約は無権代理行為とみなされ、本人Aは責任を負わない。
たとえば、Bさんが「会社の口座ではなく、個人の口座に振り込んでほしい」など、不自然で怪しい要求をしてきたため、少し注意すれば濫用目的に気づけたはずだった場合など。
*逆に銀行Cが、Bさんの**濫用目的につき、善意無過失の場合は、見た目通りの有効な代理行為として扱われ、本人Aさんの会社が借金を返す義務を負います。
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。
ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
◎条文構造
第1項(自己契約・双方代理):
利益相反行為の典型例として、自己契約と双方代理という具体例を名指しで挙げたもの。
形式的にこれに当てはまれば、原則として無権代理行為となります。
第2項(利益相反行為):
第1項の考えを一般化したもの。
形式は問わず、実質的に代理人と本人の利益が衝突する行為全般を広く禁止する包括的な規定。
原則
自己契約がダメな例 :
AさんがBさんに「僕のゲーム機を1万円くらいで誰かに売ってきて」と頼んだとします。
もしBさんが「じゃあ僕が買うよ」と言って、値段も自分で5000円に決めてしまったら、Aさんは損をしてしまいますよね。
Bさんは自分(代理人)が得をすることしか考えないかもしれません。
双方代理がダメな例 :
AさんがBさんに「僕の家をなるべく高く売ってきて」と頼み、同時にCさんが同じBさんに「良い家をなるべく安く買ってきて」と頼んだとします。
Bさんは板挟みです。Aさんのためには高く、Cさんのためには安く売らなければならず、両方を満足させることは不可能です。
必ずどちらかが損をしてしまいます。
例外:「債務の履行」ならOKなのはなぜ?
「債務の履行」は、すでに決まっていることを実行するだけなので、代理人が勝手なことをして本人を損させる心配がないのです。
だから例外として認められています。
例:双方代理と「債務の履行」
Aさん(売主)とCさん(買主)が、司法書士のB先生に「二人の代理人として、登記手続きをまとめてお願いします」と依頼しました。
B先生は、AさんとCさんの両方の代理人として、法務局で名義変更の手続きをします。これは「双方代理」にあたります。
しかし、これもOKです!なぜなら、
家の値段(3000万円)や、どの家を売買するのかは、すべて契約で決まっています。
司法書士のB先生が、勝手に値段を変えたりすることはできません。
B先生がやるのは、**“決まった契約内容を法務局に届け出るという事務的な手続きだけ”**です。
これも「債務の履行」の一種なので、例外的に許されるのです。
★「債務の履行」の該当例
本人の利益を害することのない「すでに決まっていることを実行するだけ」であれば、「債務の履行」といえる。
弁済期到来後の債務の弁済◎
弁済期到来前の債務の弁済✕:期限の利益を失うため
代物弁済✕:本来の目的物に代えて給付をするため
存否や金額について争いのある債務✕
時効にかかった債務の弁済✕
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
この規定の趣旨
虚偽の外観を作り出した本人に責任を負わせることで、その外観を信頼した第三者を保護する点
表見代理とは
本当は代理権がないのに、外から見ると代理権があるように見える場合に、その外観を信じて取引した相手方を保護するため、本人に契約の責任を負わせる制度
◎条文構造
109条1項:
請求原因:取引の相手方(原告)
①本人が代理権授与の表示をしたこと
②その表示の範囲内で行為がされたこと
抗弁:本人(被告)
相手方が悪意(知っていた)または有過失(不注意で知らなかった)だったこと
効果:
本人が責任を負う。
109条2項:
請求原因:取引の相手方(原告)
取引の相手方(原告)
①本人が代理権授与の表示をしたこと
②その他人が表示の範囲を超えた行為をしたこと
③権限があると信じたことについての「正当な理由」があったこと
効果:
本人が責任を負う。
具体例:1項
Aさん(本人・土地の所有者)
Bさん(無権代理人・Aさんの知人)
Cさん(第三者・土地の買主)
Aさんは、自分の土地を売る気はないのに、見栄を張って友人のCさんに「土地の売却は全部Bに任せることにしたんだ」と書いた手紙を送ってしまいました。(←これが代理権授与の表示)
その手紙のことを知ったBさんは、Cさんのもとへ行き、「Aの代理人として土地を売ります」と言って、Aさん名義で売買契約を結んでしまいました。
CさんはAさんからの手紙を信じていたので、Bさんに代理権がないことを知らず、また、知らなかったことについて落ち度もありませんでした。(←Cさんは善意無過失)
この場合、Aさんは「Bに代理権は与えていない!」と主張することはできず、原則として売買契約の責任を負わなければなりません。
具体例:2項
Aさん(本人・土地の所有者)
Bさん(無権代理人)
Cさん(第三者・金融機関)
Aさんは、土地を担保にお金を借りるため、Bさんに「この土地を担保に入れる代理権(抵当権設定の代理権)を与える」という内容の委任状を渡し、そのことを取引先のC銀行にも伝えました。(←代理権授与の表示)
ところが、BさんはC銀行に行き、その委任状を使って、土地を担保に入れるのではなく、完全に売却してしまう契約を結んでしまいました。(←表示された「担保に入れる」という権限を超えた行為)
C銀行が、Bさんに売却権限まであると信じたことに「正当な理由」(例えば、Aさんが以前から売却の意思を漏らしており、委任状の記載も曖昧で売却権限があると誤解しても仕方ないような事情)があったとします。
この場合、AさんはC銀行に対して、土地の売買契約の責任を負わなければなりません。
★民法109条Ⅱと、110条との関係はどうなるのか?
109条2項: 代理権が全く無いが、「与えた」という表示があった。
110条: 何らかの代理権が実際に有るが、その範囲を超えた。
前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
条文の趣旨
取引の安全の保護(外観法理)
本人が代理人に何らかの代理権を与えた場合、その代理人は本人のために活動する人間として、社会的な信頼を得ます。その信頼を基礎にして、代理人が与えられた権限を超えて取引をしてしまった場合、その外観を信頼した相手方を保護しようというのがこの規定の趣旨です。
◎条文構造
要件
取引の相手方(原告)が
①代理人に何らかの代理権(基本代理権)があったこと
②代理人がその権限を超える行為をしたこと
③権限があると信じたことについての「正当な理由」があったこと
効果
本人が責任を負う
具体例
Aさん(本人・車の所有者)
Bさん(代理人・Aの友人)
Cさん(第三者・中古車販売業者)
AさんはBさんに「この車を修理に出す代理権を与える」と言って、実印と印鑑証明書を預けました。(←基本代理権の授与)
ところがBさんは、預かった実印と印鑑証明書を使い、Cさんとの間でその車を売却してしまう契約を結んでしまいました。(←修理という権限を超えた行為)
Cさんは、BさんがAさんの実印を持っていることから、売却権限まであると信じ、そう信じたことについて落ち度もありませんでした。(←正当な理由あり)
この場合、AさんはCさんに対して「Bに売る権限は与えていない!」と主張できず、原則として売買契約の責任を負わなければなりません。
第百十一条 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
「代理権」は、法定代理権、任意代理権の2つある。
◎条文構造
第1項
どんな代理権(法定代理・任意代理の両方)にも共通する消滅原因
例:代理人自身に後見が開始されるということは、代理人自身の判断能力が不十分になったということです。自分のことが十分に判断できない人に、他人の代理は任せられません。
★本人に後見が開始されても、代理権は消滅しない。むしろ代理人は本人を代理してあげるべき。
第2項
委任による代理権(任意代理)だけに限定される消滅原因の追加
大元である委任契約の終了(発生源がなくなれば、代理権もなくなる)
例:本人が「もう頼むのやめるわ」と解除する、頼まれた仕事が終わるなど
他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
民法112条は表見代理の3つ目の類型で、代理権が「消滅した後」の取引を規律する条文です。
条文の趣旨
取引の安全の保護(外観法理)
法律用語
代理権の消滅:
本人が代理権を取り消した(任意代理)、本人が死亡した、代理人が死亡した、など、一度有効に存在した代理権がなくなることです。
◎条文構造
第112条第1項:基本形(代理権消滅後の表見代理)
請求原因
取引の相手方(原告)
①かつて代理権が存在したこと
②その代理権が消滅したこと
③消滅した代理権の範囲内での行為であること
④代理権消滅の事実を知らなかったこと(善意)
抗弁
本人(被告)
相手方が有過失(不注意で知らなかった)だったこと
具体例
A社(本人・会社)
Bさん(元代理人・A社の元仕入部長)
C社(第三者・A社の取引先)
A社の仕入部長Bさんは、長年、C社から建築資材を仕入れる取引を担当していました。
A社はBさんを解雇し、仕入れに関する代理権は消滅しました。しかし、A社はそのことをC社に連絡していませんでした。
Bさんは解雇された後、A社の仕入部長であるかのように装い、C社から建築資材を購入する契約を結びました。(←かつての権限の範囲内の行為)
C社はBさんが解雇されたことを知らず(善意)、知らなかったことについて落ち度もありませんでした(無過失)。
この場合、A社は「Bはもう社員ではない!」と主張することはできず、原則としてC社に対して売買代金の支払責任を負わなければなりません。
◎条文構造
第112条第2項:応用形(消滅後の権限外の行為)
請求原因
取引の相手方(原告)
①かつて代理権が存在したこと
②その代理権が消滅したこと
③消滅した代理権の範囲を超えた行為であること
④権限があると信じたことについての**「正当な理由」があった**こと
具体例
上記の例で、元仕入部長Bさんは、C社から建築資材を仕入れるだけでなく、A社が所有する工場をC社に売却する契約まで結んでしまいました。(←かつての仕入れ権限を超えた行為)
C社が、Bさんに工場の売却権限まであると信じたことについて**「正当な理由」**(例えば、A社の社長がC社に対し、将来の事業売却をBさんに任せているとほのめかしていた等の事情)があったとします。
この場合、A社はC社に対して、工場の売買契約の責任を負わなければなりません。
★表見代理の3類型まとめ
表見代理は、本当は代理権がないにもかかわらず、あたかも代理権があるかのような外観が存在する場合に、その外観を信頼した善意無過失の第三者を保護するため、本人に責任を負わせる制度です。
① 授与表示型 民法109条:代理権を与えていないのに、「与えた」と表示した。
② 権限越権型 民法110条:与えられた代理権の範囲を超えて行動した。
③ 権限消滅型 民法112条:かつて存在した代理権がなくなった後に行動した。
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
◎条文構造
1項(基本原則):
無権代理行為は、本人が追認しない限り、本人に対して効力が生じない(流動的無効)。
2項(手続きルール):
本人による追認や拒絶の意思表示は、代理人(無権代理状態の人)ではなく、相手方にしないと主張できないのが原則。
前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
無権代理行為の相手方が、不安定な「宙ぶらりん」の状態を解消するために、本人に対して行動を促す権利を定めたもの
もし本人の返事を永遠に待たなければならないとすると、相手方はいつまでも不安定な状態から抜け出せません。そこで、本人が返事をしないという不作為をもって、法律関係を強制的に確定させることで、相手方を保護している。
◎条文構造
前段(相手方のアクション):
相手方は、本人に**「追認しますか?しませんか?」と期限付き(例:2週間)で質問できる**。
*相手方が無権代理について善意(知らなかった)でも悪意(知っていた)でも行使できる。
後段(結果):
本人がその期限内に返事をしない(沈黙する)と、「拒絶」したとみなされる(擬制)。
CF:催告を誰に対して行うか、効果がポイント
制限行為能力者と相手方の催告権(20条)
制限行為能力者(例:未成年者)が保護者の同意なく結んだ契約について、その契約の相手方は、保護者(法定代理人、保佐人、補助人)に対して「この契約を追認しますか?」と催告することができます。その期間内に返事がないときは、追認したものとみなされます。
理由:
制限行為能力者の場合: その行為はもともと本人自身が行った行為です。保護者や、大人になった本人が、その行為の結末をハッキリさせない(沈黙する)のは無責任だと考えられます。そのため、法律は取引の相手方を保護し、契約を有効なもの(追認)として扱います。
★無権代理についての本人の「追認」に法定追認(125条)は適用されるか
結論:されない
理由:125条は有効な行為の取り消しの場合であり、無権代理の場合には、本人保護がより強く働き(流動的無効状態)、場面が違うから。
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。
無権代理行為の相手方を不安定な立場から救済するためのルール
無権代理行為は、本人が追認するかどうかを決めるまで「宙ぶらりん(流動的無効)」の状態です。この間、相手方は契約が有効になるのか無効になるのか分からず、非常に不安定な立場に置かれます。
◎条文構造
本文(原則):
相手方は、無権代理人との契約を取り消すことができる。
ただし書き(例外):
ただし、相手方が悪意(無権代理だと知っていた)の場合は、取り消せない。
理由:悪意の相手方は、自らリスクを取ったのだから、本人が追認してくれるのを待つか、追認を拒絶された場合に無権代理人に責任を追及する(117条)しかありません。
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
本人が無権代理行為を追認した場合に、その効力がいつから発生するのかを定めた条文
◎条文構造
本文(原則):
追認の効果は、契約の時にさかのぼって発生する(遡及効)。
ただし書き(例外):
ただし、その効果によって第三者の権利を害することはできない。
具体例:但し書き
5月1日: 無権代理人Bが、本人Aの土地をCに売却する契約を結んだ(無権代理行為)。
5月10日: 本人Aは、その土地を事情を知らないDに売却し、登記もDに移した(Dが第三者として有効に権利を取得)。
5月20日: 本人Aが、Bの行為を追認した。
もし原則通り5月1日のBC間売買に遡及効を認めると、Dは5月10日に得たはずの土地の所有権を失ってしまいます。
しかし、「ただし書き」があるため、Aの追認の効力は第三者Dの権利を害することができません。したがって、このケースではDが土地の所有権を確定的に取得し、Cは土地を得ることができません。
*権利の優劣は、対抗要件の前後によって決まるので、先に登記をしたDがCに対抗できる。ただし書きの適用というよりは、対抗要件の話になる。
★他人物売買
先ほどの例で、5月1日: Bが、Aの土地をCに売却する契約を結んだ(他人物売買)場合、無権代理との違いは、Cに対して「Aの代理人B」と伝えるか、「B自身の名」でAの土地を勝手に売るかの違いに過ぎない。
⇒他人物売買の場合も、Aが追認すれば、116条の類推適用によって、遡及効がある。
★無権代理と本人の地位の相続①
本人:父A
無権代理人:息子B
共同相続:息子Bと娘D
取引相手:C
父Aの土地を、バカ息子Bが、Aの無権代理人Bとして、Cに売却した。
その後、父Aが死亡した場合、本人たる地位をBとDが共同相続した場合、Bは追認拒絶できないものの、Dは追認拒絶することができる。
しかも、Dの追認拒絶は、性質上不可分であり、相続分だけ拒絶することはなく、全体にかかるものとなる。
★無権代理と本人の地位の相続②
本人:父A
無権代理人:息子B
共同相続:息子Bと母D
取引相手:C
父Aの土地を、バカ息子Bが、Aの無権代理人Bとして、Cに売却した。
その後、Bが死亡した後、父Aも死亡した場合、妻Cが単独相続。
無権代理人が本人を相続した場合と同様に処理。
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
無権代理人が、契約の相手方に対してどのような責任を負うかを定めたもの。
◎条文構造
無権代理という状況で最も不利な立場に置かれがちな相手方を手厚く保護することを目的
1項(原則):
無権代理人は、相手方に対して**重い責任(履行または損害賠償)**を負う。
2項(例外):
3つの特定のケースでは、その重い責任を負わなくてよい。
相手方が悪意有過失であること、無権代理人自身が未成年者などのケース。
例:1項、無権代理人であることを知らなかった無権代理人
代理権が消滅したことを知らなかった代理人の場合(無過失)でも、責任を免れることはできないという非常に重い責任。この重い責任から逃れる方法は2つしかありません。実は代理権があったことを証明する。本人の追認を得る(本人が契約を有効にしてくれる)。
例:2号の例外の例外(ただし書き)
無権代理人自身が、自分に代理権がないことを知っていた(悪意だった)場合は、相手方が有過失であっても、原則通り無権代理人が責任を負います。
★「損害」賠償は、履行利益の賠償を意味する。
履行利益: 契約が有効で、履行されると信じたことで得られたはずの利益。
例:転売ヤーが無権代理に遭う
転売ヤーは、ある限定品のスマートフォンを15万円で買ってくれるお客さん(無権代理人)を見つけ、1台10万円で仕入れました。
この場合の履行利益は、契約が履行されていれば得られたはずの利益 5万円(転売益)
*「履行利益」の対義語「信頼利益」
信頼利益: 契約が有効だと信じたために、支払ってしまった準備段階の費用。
先ほどの例だと、「10万円でスマホが手に入るぞ!」と信じたために、以下のような費用を事前に支払っていたとします。
その限定品スマホ専用のケースを、先に3,000円で買っておいた。
画面を守るための保護フィルムを2,000円で買っておいた。
契約場所に行くための交通費として1,000円かかった。
合計6,000円が、転売ヤーの「信頼利益」の損害額となる。
単独行為については、その行為の時において、相手方が、代理人と称する者が代理権を有しないで行為をすることに同意し、又はその代理権を争わなかったときに限り、第百十三条から前条までの規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも、同様とする。
契約のような双方の合意で成立する行為ではなく、**一方的な意思表示だけで効果が生じる「単独行為」**に無権代理があった場合の特殊なルール
そもそも無権代理の場合は、取引相手より本人保護が優先され、流動的無効状態となる。
この流動的無効状態は、本人の追認いかんによって取引の有効の是非が決まるので、取引の相手方は不安定な立場といえる。
単独行為とは
当事者の一方の意思表示だけで法律効果が発生する法律行為のこと。
例:相手方のいない単独行為
意思表示が誰かに到達する必要がなく、その意思表示がされた時点で効果が発生するもの
遺言:
「私の財産は長男に相続させる」という意思表示は、相続人(長男)に到達しなくても、本人が亡くなった時点で効力が生じます。
財団法人の設立行為:
「私の財産を寄付して、奨学金のための財団法人を設立する」という意思表示は、特定の相手方に到達する必要がありません。
所有権の放棄:
「この動産(例:傘)の所有権を放棄する」という意思表示は、誰かに伝える必要なく、放棄した時点で成立します。
例:相手方のある単独行為
意思表示が相手方に到達して初めて法律効果が発生するもの
契約の解除:
家賃を滞納している店子に対し、大家が「契約を解除します」と通知し、それが店子に到達した時に解除の効果が生じます。
債務の免除:
貸主が借主に対し、「あなたの借金を免除します」と伝え、それが借主に到達した時に借金がなくなります。
取消し:
詐欺によって結ばれた契約について、だまされた人が相手方に対し、「この契約を取り消します」と伝え、それが到達した時に取り消しの効果が生じます。
追認:
無権代理行為や取り消せる行為について、本人が相手方に対し、「あの行為を認めます」と伝え、それが到達した時に追認の効果が生じます。
◎条文構造
原則:
単独行為の無権代理は、確定的に無効。
追認などはできない(取引の安全を優先)
理由
単独行為(例:契約の解除、遺言)は、一方の意思表示だけで相手方の法的地位を大きく変えてしまう強力な行為です。もし権限のない者がした単独行為を、本人が後から追認できるようにすると、相手方は非常に不安定な立場に置かれてしまいます。そのため、取引の安全を優先し、そのような行為は確定的に無効としています。
例外(1文目):
相手方が同意・黙認していた場合は、契約と同じように無権代理のルール(追認など)が適用される。
例外(2文目):
相手方のいない単独行為で、無権代理人が同意していた場合も同様。
具体例:相手方が同意・黙認した場合
本人Aさん: アパートの大家さん
無権代理人Bさん: Aさんの親戚。代理権がないのに、Aさんの代理人と名乗っている。
相手方Cさん: Aさんのアパートを借りている店子。家賃を滞納している。
Bさんは、店子Cさんのもとへ行き、「大家のAの代理として来ました。家賃滞納がひどいので、この賃貸借契約を解除します」と一方的に告げました。
Cさんは、Bさんに本当の代理権がないことを知っていました。しかし、「まあ、いいか。ちょうどこのアパートから出たかったし」と考え、その場で特に文句を言いませんでした(=代理権を争わなかった)。
この場合、CさんはBさんが無権代理人であることを黙認しているので、例外的に契約の無権代理のルールが適用され、大家のAさんは、後からこの解除を**「追認する」か「拒絶するか」を選ぶことができます**。
具体例:無権代理人が同意した場合
本人Aさん: 借主。Cさんから100万円を借りている。
無権代理人Bさん: Aさんの代理人と称する人物。
単独行為をするCさん: 貸主。Aさんにお金を貸している。
CさんはBさんに対して、「私がAさんに貸している100万円の借金を、これをもって免除します」と伝えました。
Bさんは、自分に権限がないと知りつつも、本人Aさんにとって利益になる話なので、「Aの代理として、その債務免除をありがたくお受けします」と同意しました。
貸主Cさんが行った「債務免除」という単独行為を、無権代理人Bさんが同意して受け取っているため、例外的に契約の無権代理のルールが適用されます。
その結果、この債務免除は「常に無効」とはならず、本人Aさんが後から「追認」するかどうかを選べる状態になります。
追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
口頭で「追認します」とは言っていなくても、ある一定の行動を取った場合には、法律上**「追認したものとみなす」というルールを定めたもの
◎条文構造
原則:
追認できる状態になった後に、リストアップされた6つの行動のいずれかを取ると、追認したとみなされる。
理由:これらの行動は、いずれも「契約が有効であること」を前提とした行動にもかかわらず、あとからやっぱり取り消しますと主張するのは相手方に対して不誠実(禁反言の法理)だから。
例外:
ただし、その行動を取るときに**「異議をとどめた(これは追認じゃないですよ、という意思表示をした)」**場合は、追認とはみなされない。
★追認をすることができる時
「追認をすることができる時」とは、取消しの原因となっていた状況が終わった時を指します。
制限行為能力者:
成人するなどして、行為能力者になった後。
詐欺・強迫:
詐欺に気づいた後や、強迫の状態から逃れた後。
【具体例】
未成年者A君が、親の同意なくBさんからバイクを買う契約をしたとします。
成人して行為能力者になった後に、
(1号)履行: A君がバイクの代金の一部をBさんに支払った。
(2号)履行の請求: A君がBさんに対して**「早くバイクを引き渡してください」と要求した**。
(3号)更改: A君とBさんが話し合い、「バイクの代金の代わりに、A君が持っているゲーム機を渡す」という新しい契約を結びなおした。
(4号)担保の供与: BさんがA君に「代金をちゃんと払ってくれるか心配だ」と言ったので、A君が自分の時計を代金の担保としてBさんに渡した。
(5号)権利の譲渡: A君が、そのバイクをCさんに売却した。
(6号)強制執行: Bさんが代金を払ってくれないので、A君が裁判所に訴えてBさんの財産を差し押さえた。
民法>総則>法律行為>条件及び期限(127条~)
(既成条件)
条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
2 (不能条件)
条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
3 前二項に規定する場合において、当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は、第百二十八条及び第百二十九条の規定を準用する。
契約の時点で、条件の結果がすでに分かっている場合のルール
条文の趣旨
法律行為(契約など)に付けられた「条件」は、本来、将来発生するかどうかが不確実な事実でなければ意味がありません。
しかし、契約を結んだ時点で、当事者が知らないだけで、実はその条件が**すでに成就していた(既成条件)**り、**絶対に成就しないことが確定していた(不能条件)**りすることがあります。
このような場合に、その契約の効力をどう扱うべきかについて、当事者の合理的な意思を推測し、明確なルールを定めたのがこの条文の趣旨です。宙ぶらりんな法律関係を早期に確定させる目的があります。
覚えるべき法律用語
既成条件(きせいじょうけん):最初から+
法律行為の時に、既に成就していた条件のこと。
不能条件(ふのうじょうけん):最初からー
法律行為の時に、成就しないことが既に確定していた条件のこと。物理的に不可能なことや、社会通念上ありえないことが該当します。
(例:「死んだペットの犬が生き返ったら」という条件)
停止条件(ていしじょうけん):ーから+
その条件が成就するまで、法律行為の効力発生が停止される条件。
「~したら、○○をあげる(効力が発生する)」というイメージ。
解除条件(かいじょじょうけん):+からー
その条件が成就すると、法律行為の効力が消滅する条件。
「~したら、契約は終わり(効力が消滅する)」というイメージ。
◎条文構造
第131条第1項
要件
契約の効力をすぐに発生させたい側
①その条件が停止条件であること
②契約時に既に成就していたこと
効果
法律行為は、条件が付いていなかったものとして、直ちに効力が発生
要件
契約を無かったことにしたい側
①その条件が解除条件であること
②契約時に既に成就していたこと
効果
その法律行為は、初めから効力がなかったものとなります。
具体例:停止条件 → 無条件
ある資産家Aが、親戚のBに対して次のような約束をしました。
「甥のCが司法書士試験に合格したら、この土地を君(B)に贈与しよう。」
この約束をしたのが11月15日。
しかし、当事者A・Bが知らなかっただけで、合格発表は11月10日にあり、Cは見事合格していました。
この場合、「合格したら」という停止条件が契約時に既成なので、贈与契約は無条件となり、AはBに直ちに土地を贈与する義務を負います。
具体例:解除条件 → 無効
ある資産家Aが、親戚のBに対して次のような約束をしました。
「君(B)に毎月10万円仕送りする。ただし、君が会社をクビになったら仕送りは打ち切る。」
この約束をした時点で、Bはすでに会社をクビになっていました。
「クビになったら」という解除条件が契約時に既成なので、仕送り契約は無効となります。最初から仕送りする義務は発生しません。
◎条文構造
第131条第2項
要件
契約を無かったことにしたい側
①その条件が停止条件であること
②契約時に既に成就不能であったこと
効果:
その法律行為は、効力が発生する見込みがないため、初めから無効
要件
契約の効力を維持したい側
①その条件が解除条件であること
②契約時に既に成就不能であったこと
効果:
効力が消滅する条件が絶対に成就しないので、その法律行為は永久に効力を失わない、つまり無条件の法律行為
具体例:停止条件 → 無効
「もし、私の死んだ愛犬ポチが生き返ったら、この家を君(B)に贈与しよう。」
「死んだ犬が生き返る」という停止条件は不能条件なので、この贈与契約は無効
具体例:解除条件 → 無条件
「この家を君(B)に贈与する。ただし、もし空から槍が降ってきたら、この契約は効力を失う。」
「空から槍が降ってくる」という解除条件は不能条件なので、この贈与契約は無条件
◎条文構造
第131条第3項
たとえ契約時に条件の成否が確定していても、当事者がその事実を知らない間は、まだ条件の成否が未定であるかのような外観が存在します。
この当事者の信頼(期待)を保護するために、条件付権利の侵害禁止(128条の準用)や、権利の処分・相続(129条の準用)を認めています。
例
贈与側Aと、受け取る側のBが、Cの合格をまだ知らない間に、Aがその土地を悪意で(AがBとの贈与契約の存在を知りながら、Bの権利を侵害することになると分かったうえで、あえて土地を第三者に売却すること)第三者に売却してしまったら、BはAに対して損害賠償を請求できる。
条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
2 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
「条件の成否に不正に介入して、自分に有利な結果を導こうとする行為を許さない」**という、信義則上のルール
条文の趣旨
民法の基本原則である信義誠実の原則(信義則)
一方の当事者がその条件の成り行きにズルをして、自分だけが得をしようとする行為は、相手の信頼を裏切るものです。
そこで、そのような信義に反する行為(妨害・不正な成就)によって得られた結果とは逆の効果を法的に認めることで、当事者間の公平を図り、相手方の正当な期待を保護することを目的
覚えるべき法律用語
みなす:
法律上、**「〜であると断定する」**という意味の非常に強い言葉です。事実がどうであれ、法律上は成就(または不成就)したものとして扱われ、反対の証拠を挙げてその効果を覆すことはできません。
*「推定する」(一応〜だろうと考えるが、反証があれば覆る)よりも強力な効果
第130条第1項:条件成就の妨害
条文構造(請求原因・抗弁)と効果
条件が成就したと主張する側
当事者間で、条件付きの法律行為が存在したこと
相手方(被告)が、その条件が成就すると不利益を受ける立場にあったこと
相手方が、故意にその条件の成就を妨害する行為をしたこと
その妨害行為がなければ、条件は成就していたといえること(因果関係)
効果:
相手方は、「条件が成就したものとみなす」ことができる
第1項(妨害)の具体例
施主Aが、建築業者Bに対し「隣家Cから、この工事の許可が下りたら、工事代金1,000万円を支払う」という契約(停止条件付契約)を結んだ。
Aは、許可が下りると代金を支払う義務が生じるため、不利益を受ける当事者です。
Aは工事代金を支払いたくないと考え、Bに隠れて隣家のCさんのもとへ行き、「Bは手抜き工事で有名な悪徳業者ですよ」と嘘を吹き込み、Cさんに許可を出すのをやめさせた。
BはAの妨害行為を立証すれば、「Cから許可が下りた」ものとみなし、Aに対して工事代金1,000万円を請求することができます。
第130条第2項:条件の不正な成就
条件は成就しなかったと主張する側
当事者間で、条件付きの法律行為が存在したこと
相手方(被告)が、その条件が成就すると利益を受ける立場にあったこと
相手方が、不正な手段を用いてその条件を成就させたこと
効果:
相手方は、「条件が成就しなかったものとみなす」ことができる
第2項(不正な成就)の具体例
父親Aが、息子Bに対し「司法書士試験に合格したら、ご褒美に車を買ってやる」と約束した。
Bは、合格すれば車を買ってもらえるので、利益を受ける当事者です。
Bは、試験に合格する実力がないため、試験当日にカンニングペーパーを持ち込むなどの不正行為によって合格しました。
Aはその事実を知れば、「Bは試験に合格しなかった」ものとみなし、車を買い与える義務を免れることができます。
★「みなす」ことができる時期はいつか?
判例「妨害行為がなければ、条件が成就したであろうと推測される時点」
例
Aが3月10日に妨害行為をしたとします。
妨害がなければCさんの許可が4月1日に下りるはずだった、と推測される場合、Bは4月1日になって初めて「条件が成就した」とみなし、代金を請求できる。
法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。
2 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。
「期限を付けた契約では、その時が来るまで請求したり、権利を失ったりはしない」**というルール
条文の趣旨
当事者が定めた**「時の到来」という意思を尊重**し、法律関係の安定を図るため
覚えるべき法律用語
始期(しき):
法律行為の効力が発生する時点として定められた期限のこと。
(例:令和8年4月1日から雇用契約が始まる)
終期(しゅうき):
法律行為の効力が消滅する時点として定められた期限のこと。
「~まで」「~になったら終わり」という形で付きます。
(例:賃貸借契約は令和8年3月31日までとする)
期限の利益(きげんのりえき):
期限が到来しないことによって当事者が受ける利益のことです。
特に、お金を借りた側(債務者)にとって、「返済日が来るまで返さなくてもよい」というのが典型的な期限の利益
★期限と条件の違い
「期限」は、到来することが確実(例:来年の元旦)
「条件」は到来するかどうかが不確実な事実(例:試験に合格したら)
★出世払いは、期限か条件か
「出世払い」は一般的に「期限」と解釈
例
先輩Aさんが、起業を目指す後輩Bさんに「成功を応援するよ!」と言って、活動資金として100万円を貸しました。
返済について、二人は口頭で「出世払いでいいよ」とだけ約束しました。
数年後、Bさんの事業はうまくいかず、結局Bさんは夢を諦めて実家の家業を継ぐことになりました。
AさんはBさんにお金の返済を求めました。
裁判所は、「出世払いとは、出世した時、または出世が不可能になった時に支払期限が到来するものと解する」と判断
その不可能になった時点で支払期限が到来したと見なされ、BさんはAさんに100万円を返済する義務を負います。
*もし「条件」と解釈された場合
「出世払いとは、出世した場合にのみ返済義務が発生する、という停止条件付きの契約であった」と判断
Bさんは出世しませんでした。
条件が成就しなかったため、返済義務は発生しません。BさんはAさんに100万円を返済する義務を負いません。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
条文の趣旨
取引の安全の保護:
日常的な家庭の買い物などについて、いちいち相手方が「本当にご主人の許可を得ていますか?」などと確認しなくても、安心して取引できるようにするためです。夫婦は一体として生活しているのだから、日常的な範囲の取引については、両方が責任を負うのが公平だという考え方です。
夫婦間の代理権の承認:
夫婦は、日常家事の範囲内で、お互いに代理権を与え合っている(相互代理権)と法律がみなしている、という側面もあります。
条文構造
請求原因
第三者(原告)
①契約した相手が夫婦の一方であること
②その契約が「日常の家事」に関するものであること
抗弁
他の一方(被告)
第三者に対し、責任を負わない旨を「予告」していたこと
具体例
Aさん(夫)
Bさん(妻)
Cさん(第三者・近所のスーパーの店主)
妻Bさんは、いつも利用している近所のスーパーC商店で、夕食の材料や日用品などを月末にまとめて支払う約束(ツケ)で購入していました。
ある月、Bさんは支払いをすることなく、Aさんと離婚して家を出て行ってしまいました。
スーパーの店主Cさんは、夫Aさんに対して、Bさんが作った買掛金(ツケ)の支払いを請求しました。
食料品や日用品の購入は「日常の家事」の典型です。したがって、夫Aさんは「それは妻が勝手にしたことだ」と主張することはできず、原則としてCさんに対して支払いの責任を負わなければなりません。
★日常家事
画一的に「〇〇円まで」と金額で決めるのではなく、個別具体的に判断する
主観的要素: その夫婦の共同生活の目的や内容
客観的要素: その夫婦の社会的地位、職業、資産、収入、居住地域の状況など
例えば、一般的なサラリーマン家庭で、夫に内緒で妻が数百万円の高級毛皮のコートをローンで買ったような場合、「日常の家事」の範囲を超えていると判断される可能性が高いです。
★761条と110条(権限外の行為の表見代理)の関係
この761条の日常家事代理権を「基本代理権」として、110条の表見代理が成立しうると判例は認めています